二次 | ナノ


▼ 08.参謀総長と訓練

シンクの名の推薦のもと、私は士官学校への入学が決まった。そこで問題は発生した。

「文字が読めない」

入学希望の書類に前世の記憶にある音符のような記号が並んでいるのを見て、真っ先に言ったのがそれだった。

「その可能性は考えていたけど、やっぱりね。まあ問題は無いよ。入学希望者の識字率は50%を切るくらいだから、入学後にフォニック文字の座学がある。始末書・報告書のかけない兵士はいらないからさ」

「なるほど……」

「読めない奴には推薦者が口頭で読み上げてやることになっている。代筆も僕が行えるからやってやるよ。キリヤ、アンタファミリーネームは?」

「ふぁみりーねーむ?」

なんだっけ、それ。どこかで聞いたことあるような……もしかして前世の記憶だろうか。曖昧だなぁ。首をひねっていると、シンクが無しでいいねとバッサリ切った。まぁ、無くても困りはしないだろう、多分。

シンクはつらつらと入学希望の条件を読み上げたが、訓練中の怪我は自己責任、という事と、卒業後はオラクル騎士団に配属という項目だけわかれば問題ない。身分は学業に一切関係しないって、身分ってなんだっけ?

「社会構造や一般常識が抜け落ちてる気がする……」

むしろ知らない事ばかりだ。世紀末は暴力が全てなのだし。

「アンタの記憶喪失はなかなか厄介だね。ま、そういう事に関する座学もあるから、安心しなよ」



入学後二日目にして早くも体力づくりの為の訓練が行われた。やはり思っていた以上に私の体は弱くなっていたらしく、終わった頃にはクタクタだった。
だが、ぬるい。
母から拳を教わった時でさえ、この体力切れの瞬間が真の修行の開始と言っても過言ではなかった。

解散後になっても修練所に一人残り、身体の感覚に従って最もはじめに教わる足捌きの型を練習する。身体は動きについて来れなかったが、目や感覚はまだきちんとそれを覚えていてホッとした。

「初日から自主訓練か?」

唐突に声をかけられてピタリと身体を止める。鼻が効かなかった、という事は、相手は特務師団と呼ばれる暗殺部隊の一員だろう。
視線を向けると、そこには鮮やかな赤い髪の男が立っていた。見たところ私と同年代くらいに思えるが、もしかすると年下かもしれない。

「なにか?」

「ああ、いや。熱心なもんだと思っただけだ。だが、今の動きを見たところお前素人じゃないだろ。どうして士官学校に入ってるんだ?」

「錆びついてますんで。あと、文字が読めなかったり色々と問題が。」

訳を説明すると、なるほどな、とごくあっさりとした首肯が帰ってきた。

「お前はなかなか見所があるな。名前は?」

「キリヤです」

「そうか。俺はアッシュ。特務師団団長だ。キリヤ、卒業した後はお前、特務師団に来い。その動きは特務師団が一番活かせるはずだ」

ま……確かに元々南斗聖拳は暗殺拳らしいしね。分裂と統合、消滅を繰り返す南斗の流派は108もあって、最盛期には1000を超えていたとも言われるため、もはやその情報も信憑性に欠ける。しかし、南斗水鳥拳の女拳はかなり暗殺向きの静かな柔拳なので、暗殺拳を名乗ろうと遜色はない。
しかし、卒業後はシンク率いる第五師団への配属が既に内定している身ではなんとも返せず、曖昧に微笑を向けることしか出来なかった。

「潜入にも使えそうだな……ますます重要な戦力だ」

いいや、潜入はもう懲り懲りだ。この先何があっても、アイリちゃんとレイさん以外の為に潜入は絶対にしない。
こうなったのは全てあの潜入のためのドレスのせいだ。
特務師団入りだけは絶対に回避しよう、と心に決めた。

暇な身ではないのだろう、アッシュが去ってからも、私は水鳥拳の練習をやめなかった。何時間かしたころ、修練所に誰が近付いてきたのがわかり、ようやく足を止めた。汗がどっと吹き出し、置いておいた水筒で水分の補給をする。

修練所の扉を開けたのは、シンクだった。

「キリヤ?」

「あ、シンク。どうしたの」

「どうしたのじゃないよ。もう修練所の閉まる時間だよ。訓練生の区画に僕の推薦生が帰ってこないって報告があってしょうがなく迎えに来てやったんだけど」

無駄な労働が増えた、とシンクの機嫌は悪い。どうせ定期の監視を兼ねてるんでしょ、と私の方はそれを軽く肩を竦めて受け流した。

「言っておくけど、アンタ今日ご飯抜きだよ。食堂はとっくに閉まってるから」

「問題ないよ。修行中はいつもそんなもんでしょ」

「……アンタのその拳法、どんだけなの」

中国発祥の伝統ある南斗聖拳のうち、南斗六聖拳のうちの一つの南斗水鳥拳ですけど。なんて、口が避けても言わない。

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