二次 | ナノ


▼ 03.兄弟子と潜入準備

「戻ったぞ」

「おかえりなさい、レイさん。何か収穫はありましたか?」

「ああ。ライドウの野朗、集めた女に飽きたら売っぱらうという下衆な真似をしているらしい。チッ……ゴミめ」

戻ってきて早々に不機嫌なレイさんは、壁を背もたれに座る私の横にどっかりと腰を下ろした。

「うわー、最低なクソ野郎ですねほんと」

「……俺が言うのも何だが、お前、もう少し言葉使いに気を使え。女だろう。」

「あ、すみません」

確かにレイさんから言葉の伝染っている自覚はあったので、素直に謝っておく。しかし、普段話していたのはレイさんを始めとして圧倒的に口の悪い男が多かったため、仕方ないことだとも言える。母だって昔は物凄い言葉遣いだったらしいし、その上私の場合前世の口調も影響している。

「それから、ヤツのねぐらについてだがな……。」

若干言いにくそうにレイさんが話を続けた。その様子にははぁ、と早くも合点がいく。これは多分アレだ。私が囮になったりするパターンだ。

「元々シェルターだったらしい。それで、入り口を閉じられてしまうと……」

「入れなくなる、と。」

「ああ。だが、ライドウの気に入りそうな女を連れて行けば中に入る事ができる。」

神妙に頷いたレイさんに、私はがくっと肩を落とした。

「それ、レイさんがやったら一発なんじゃ……」

なにせレイさんの女性のフリに掛かった間抜けは両手の指じゃ足らないくらいなのである。しかし、レイさんは呆れたように半眼で私を見ながら溜息をついた。

「顔を隠して入れるわけがないだろう。目元だけなら兔も角、俺の顔を晒して美女と間違えてくれる奴はいないぞ」

「そうですか……。じゃあ、強行突破するしかないですね。私じゃ門前払いでしょうし」

「お前、鏡を見たことが無いのか?」

どうしてかレイさんの呆れ具合が酷くなった気がする。私何か変な事でも言っただろうか?

「それくらいありますよ。私の顔がなんだっていうんですか。」

自分で言うのもなんだが、酷い顔ではない。しかし、美人かと言われればそうではない。せめて母に似ればよかったのに、私の顔は普通の顔だ。ぼんやりした前世の記憶から考えてみても、多分普通だと思う。

「なら美醜の感覚がおかしいのか?」

「いやそれは無いですよ。レイさんがめっちゃ美人だって分かってますし、アイリちゃんは美少女ですし。あと、うちのお母さんも綺麗な方ですよね。えーと……アミバはちょっと、元はいいのかもしれないですけどね、性根が顔に現れてますよね。あとは……あ、孤鷲拳の伝承者のシンさんも美形ですよね」

つらつらと列挙していくと、レイさんは可哀想なモノを見るような目を私に向けた。え、今の評価絶対正確だったよね?!

「自己評価が極端に低いんだな」

どういう意味ですかレイさん。

「とにかく、悪いがお前を献上品として中に侵入する作戦で行こう。」

「はあ……入れなかったらどうするんですか?」

「その心配は無いから、早く服をどうにかして来い」

頭の痛そうなレイさんに、私は首を傾げたのだった。



明日売っ払おうとしていた野盗の遺品の中に、どっかに献上でもするつもりだったのか綺麗なドレスや宝石があった事を思い出して、物陰でそれに着替えた。今では希少である化粧品もあったので、せめて少しは顔を誤魔化せるかとそれを使う。価値は落ちただろうが、背に腹は代えられない。あーあ、このドレス高く売れただろうにな。数時間後には血みどろ確定である。

「出来たか?」

「はい」

気を遣って此方に背を向けて見張りをしてくれていたレイさんが振り向く。月明かりの中に進み出ると、レイさんは驚いた顔でぎしりとその動きを止めた。
変ではないはずだ。という事は、前世スキルをフルに活用したメイクが予想以上に効果があったのか。

「レイさん?」

「……あ、ああ。何でも無い。」

「はあ。えーと、髪だけやってもらっていいですか?」

石化から回復したレイさんに銀と宝石で出来た綺麗な髪飾りを渡す。度々アイリちゃんの髪を結っていたレイさんなので、すぐに終わるだろう。レイさん、手先も器用だしね。
予想の通りレイさんは手早く私の髪を結い上げて、髪飾りを挿し込んだ。頭の上でシャラシャラと音を立てるのが耳に心地よい。何より、最後にこんな風に着飾ったのはもうどれくらい前か分からないほどだったので、久々のオシャレに少しだけ心が踊った。

「どうですか?変じゃないですか?」

ただ頷いてくれることを望んでレイさんを振り仰ぐと、レイさんの右手がスッと伸びて、私の肩に掛かった横髪の一房を掬い上げた。

「ああ。とても似合っている」

その指がそのまま私の頬をするりと撫でる。

「レイさんキザですねー」

世が世ならさぞかしモテ男になっただろう。絶世の美男子で強くてしかも中身は男らしくてさらに手先が器用なキザ野朗なんて女の子が群がる要素を満たし過ぎだ。あ、でも平和な21世紀だったら私のほうがモテるかも?細身で中性的な顔がブームだった筈だ、多分。

この格好で素顔を晒しながら街を歩く気はないのでさっさとベールを被ると、レイさんは何故か何とも言えない表情で私を見ていた。
なんですか?ちゃんとときめいてますよ。ベール捲られたら困るくらいには顔が熱くなっていた。

ライドウ一派のねぐらは街の中心にある。さくっと移動して、レイさんは門番であろうゴロツキに声を掛けた。

「おい、極上の女を手に入れたんだが、ライドウが高く買ってくれるとは本当か?」

「お?おお。どんだけの値がつくかはライドウ様との交渉次第だがな。どれ……おほー!」

男が私のベールを捲って歓声を上げた。化粧がそんなに上手いこと乗っていたのか。心の中でガッツポーズする。

「こりゃあ凄え!通してやるよ、ホラ。ライドウ様が飽きたら俺が貰ってやるからよ!」

下衆な舌なめずりを目の前でされて、非常に気分が悪くなる。後でお前ブチ殺すから、覚えとけよ。

prev / next

[ back to top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -