二次 | ナノ


▼ 01.兄弟子と旅の途中

転生ってヤツを皆様ご存知ですか。前世の業によって生まれ変わったあとどんな世界になるのか決まるって有名なアレのことです。でもさぁ、ヒンドゥー教だって仏教だって過去の世界のパラレルワールドに、前世の記憶を保持したまま生まれ変わるなんて一言も言ってないよね。

時は200X年、世はまさに世紀末。誰だ核戦争なんぞ起こしたドアホは。ブチ殺すぞ畜生め。



餓狼と義の星



どうもはじめまして、私、前世(未来)の記憶があるという変な女ことキリヤですよろしく。

最早私の知っている地球の二十世紀末とは別物すぎるこの世界、私は異世界として扱っている。因みに前世の私はとっても平和な21世紀生まれで、何をどう間違っても荒れて寂れた砂漠と荒野の延々続く世界とは無縁だった。核の威力に驚きである。核戦争ダメ、絶対。

「レイさん、レイさん、ご飯ですよ」

「ん……ああ、すまない」

この世紀末世界は基本的に暴力の支配するところなので、私は今は亡き母によってナゾの中国拳法を伝授されている。女の子なのに全身筋肉で硬いんだよ私……泣けてくる。引き締まってすらっとしてるからスタイルは良いのですけれどもね。
しかし、母は流石に私を伝承者と呼ばれるレベルまで引き上げるつもりは無かったらしい。故に基礎とちょっとした応用だけ身につければ、後は兄弟子のレイさんのお世話役のような事をしていた。
この兄弟子のレイさんは私より四つ上のめっちゃ美人さんで、父と母の弟子であり、私と違ってその拳法の正統伝承者である。もちろんとっても強い。

さて。そして現在、レイさんと私は二人で旅をしている。

目的はレイさんの妹、アイリちゃんを探し出すことだ。
レイさんと私が村を留守にしていた時、村が襲撃されて、胸に七つの傷を持つ男にアイリちゃんは攫われてしまったのだ。

私の方は、核戦争で父も母も死んでしまった為レイさんの村にお世話になっていたのだが、私としてもアイリちゃんは大事な幼馴染であるため、レイさんとともにこうして殺意を胸に旅をしているのである。
胸に七つの傷のあう男、貴様絶対にぶち殺してやるから首を洗って待っとけよ。
それから、流石に私一人では生きていけないという理由もある。まー別にレイさんにおんぶに抱っこというわけではないけど。
例えば平和的に食糧を調達するのなんかは私の仕事だ。時たま襲ってくる盗賊なんかを返り討ちにして、その遺品を売り捌くまでがレイさんの役割だが、買い物をするのは私が役目。
相手に不要な威圧感を与えずに済むし、何よりボッタクリでない店を見つけるのは私の方が得意なのだ。これは前世活用スキルだけどね。

「レイさん喜んでください、今日はお肉と野菜が買えたのでバランスがいいですよ」

「そうか」



夜は交代で見張りをしながら眠りにつく。
レイさんは気配に敏いけれど、私は私で鼻がきくのでその能力を惜しみはしない。その日はレイさんが先に眠ることになった。
谷間の崖の下の物陰に座り込むレイさんが、「無理はするなよ」と私に声を掛ける。しかし、最近レイさんは疲れ気味らしく、目の下にクマが出来始めている。
雑魚くらいなら私でも倒せるので、レイさんをいつもより長く寝かせてあげようと固く決意して、崖の出っ張りに腰掛けた。谷底より三メートルは高い位置からは周囲がよく見渡せる。

五時間ほど経っただろうか。風の中に人の匂いが混ざったのを感じて風上へ視線を向けた。
血生臭さと独特の汗の香りから、遭遇率の高いゴロツキだと判断する。よーく目を凝らすと、髪をモヒカンにした屈強な筋肉ダルマが三人で連れ立ってこちらへ向かってくるのがわかった。
遮蔽物は何も無いから、崖の下のレイさんは気付かれるに違いない。レイさんの休眠を妨げさせる気は無いので、私はそいつらの元へダッシュした。

「うぉっ!?」

「どうも。こんな夜更けにお出掛け?」

「な、何だこいつゥ!?」

何だコイツと叫ばれても仕方ない。仮面付けてローブに身を包んでいるからね。

「静かにしてくれないかな、仲間がこの先で休んでいるんだ。起こしたくないし」

「あん?」

「まてよ、こいつえらく細くねえか?丁度いいぜ!」

「そうだな!おい、お仲間を静かに寝かしてやりたきゃ俺達にお前のケツを貸してくれねえかな!」

下品だなぁ。レイさんを見習えよ。一回もそういう処理を見た事も気付いた事も無いんだぞ、凄くない?街で女を買ってたりはするかもしれないけど。

「三人いるんだし、自分達で処理しあえばいいじゃないか──おっと」

断った瞬間腹部を狙った蹴りが飛んできて、ひょいと躱す。シロートさんはこれだから。

「先に手を出したのはそっちだし、反撃しても文句無いよね」

飛び込んで首を掻き切る。返り血を浴びないようにすぐさま宙返りで距離を置き、崖を蹴って上空からもう一人顔を引き裂く。悲鳴を挙げれないようそいつの口に右足を捩じ込み、踏み台にして最後の一人へと跳躍。そいつの左肩に右手をついて、くるりと回転しながら首をへし折ってフィニッシュ!

母から伝授された女拳の動きは柔軟性に富むものの、遠心力や相手の力を利用しなければマトモな威力も出せない。かと言って私のひ弱な痩身では父が得意としたという剛の拳、つまり男拳は使えないので、これを磨いていくしかない。
レイさんは父からも母からも拳を習得したからどっちも使えるんだけどね。あーあ、私が男だったら良かったのになぁ。そしたら……

物思いに耽っていると、顔を引き裂いた奴が小さく呻いた。あれ、殺し損なったみたい。喉元に指先を付き入れてやれば、びくんと一度大きく震えてそのまま動かなくなった。

「こら」

「あっ」

突然背後から首のあたりを掴まれて、ネコのようにぶらんと持ち上げられる。あっちゃー、レイさん起きちゃったか。

「また一人で戦ったのか、キリヤ。起こせって言っているだろう」

「でも三人だったし、雑魚だったし、レイさん疲れてるみたいだったし」

「あのな……。それでお前が死んだり手足が使えなくなったら俺は天の師達にどんな顔をすればいいんだ?」

呆れたようにレイさんが言うので、私はちょっと肩を竦めた。いや、父と母は私の責任をレイさんに取らせたりはしないと思うけど。

「一応私、レイさんの妹弟子なんですが」

「それでもな、俺が心配になるだろ。ちゃんと敵が来たら起こしてくれ。」

「すいません……」

窘められてしまった。我が兄弟子は心配性である。

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