二次 | ナノ


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グリフィンドール生は金曜は魔法薬学が終われば放課なのだが、スリザリン生は終日授業がある。金曜の夜中に天文学の授業があるのはちょっと羨ましい。スリザリン生の一年生は代わりに月曜の午前のコマが空いているのも羨ましい。スリザリンに入れば良かったかなァ。

おできを治す薬?ドラコと組んだし、失敗するようなもんでもないだろ。隣のネビルが手順の違う事をしようとしていたので、突付いて止めておいたりはしたけどな。失敗したら絶対私に被害が出る位置だった。危ねーな。

「ダリア、アフタヌーンティーをハグリッドに誘われてるんだけど、一緒に来る?」

昼食のテーブルでハリーがひらひらと何かの紙を振りながらそう言った。紙にはミミズののたくったような汚い走り書きがある。何だそれはとよくよく目を凝らすと、見覚えのある文字だということが分かった。ハグリッドからのお誘いの手紙か。

「暇だし、行こうかな。それまではセレマといるけど」

「了解。それじゃ、二時半に大広間で会おう。僕はこの後ロンと城内を散策するから」

「行ってら」

ひらひら手を振って去ってゆく黒髪を見送る。ホグワーツに来るまではほぼ24時間一緒だったのが疑わしい程、お互いに寂しさを感じない。実に健全な兄弟関係である。おっと、姉弟だったか……。



セレマと過ごす事が多くなった一因として、彼女の語る非常に哲学的な世界観が魔法に対して役に立つ、ということが挙げられる。まず彼女は、肯定することが大事だといつも言う。

肯定。理解及び納得。例えば彼女は、世界を一つの意志ある存在として捉えている。マグルは科学によって世界の理を紐解こうとするし、ある者は神の創造物だと理解し、特異なオカルティスト達は魔法族に似て世界を四つやら六つの要素の組み合わせで成り立つと考える。

私がこの世界をどのように考えているか、それを自覚する事によって魔法の受け入れ方も変わってくる。
魔法と科学に折り合いをつけて行く事、頑なにならず柔軟に魔法の存在を受け入れる事、自分の魔力の流れを把握し、操れるようになる事。この三つが私が魔法を扱うにあたり重要な要素となる。

──私が思うに、世界とは『現象』だ。世界は原子から出来ているが、原子だって電子の運動という現象で成り立っている。宇宙間には地球に存在しない物質もそれこそ星の数ほどあるだろう。
そう考えれば、これまでかちかちに固まっていた科学だけの世界が急速に剥がれ落ちていく。
地球上にもまだ科学が解明できていない現象がある、その一つが魔法だ。すとんとその事を納得しただけで、途端に魔法の成功率が跳ね上がる。

「魔法を受け入れる精神は芽吹きつつあります。」

様々な事を対話の中でセレマから習う。恒例になりつつある一時間ほどの問答の後、彼女はそう言って笑った。

「仏教的・神道的な世界観と科学的思考、その他諸々組み合わせて成り立った自分の中の考えを否定せず、魔法に対する理解を自分に合わせて一つ一つ丁寧に行う。理解と納得、つまり肯定。合っているかな?」

確認した私に、セレマは穏やかに微笑む。彼女はその考え方も人それぞれだと言う。だから、肯定も否定もしないのだ。私の考え方はセレマと類似だろうが、それでもおそらく微細な部分は異なる。言霊思想ではないが、魔力あるものとして言葉を重んじる彼女は不要な声を発さない。

人類よりも長い歴史を持つエルフに脈々と受け継がれてきた魔術は、己の肯定と魔力の操作のみで行われるという。だから、特定の理論を持たない上使われる魔法も個々によって千差万別なのだという。人間って生き物は本当に画一するのが好きだな。魔法族もマグルも関係無く、気がつけば全体を統一しようという意思が働いている。

「それも短い時の中に生きる人の運命……」

取り敢えず、まだまだ子供のはずのセレマがこれほど泰然とした存在ということは、他の大人達がどうなってしまうのやらという事が目下一番の興味である。

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