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イングランド中の魔法使いが大量に集まる日とあって、どうせ魔法界から何かしらの緊急時対応をするための人がいるだろうと考えていた。そしてそれは当たっていた。
注意深く周囲を見回しさえすれば、ちらほらどことなく浮いた格好の奴が目に入ってくる。ラウンジスーツにカンカン帽被った六十年前の人間みたいな奴とかね。
ダーズリー一家から離れた私は、途端に苛立ちがするすると引いていくのを感じて深く息をついた。
やっと落ち着いたか。
他人事のように思いつつ、そのカンカン帽に話し掛けてみた。
「excuse me!」
「はい、はい、お坊っちゃん、どうしましたかね?」
「9番線と10番線の間に行きたいのですが、どこにあるか分かりますか?」
「ええ、勿論。案内しますよ。」
そいつが怪訝な顔をせずににっこりと笑ったので、これは当たりかなーと心の中で呟いた。
「今日から学校ですかな?」
「はい、そうです。スコットランドの方にある学校なんですけど。」
「ほう。スコットランドですか。何という学校なのです?」
「ホグワーツといいます」
「ほう!」
カンカン帽の下の人懐こそうな顔が嬉しそうにくしゃくしゃになる。やはりそうでしたか、と呟くので、最近はカンカン帽はマグルの中では流行ってないですよと返しておいた。
少し流行遅れな格好のほうが同族を助けるのに役立つのだ、と更に返されたので、なるほどと納得する。まさに今の私の状況がそれである。
カンカン帽の男は私を9と3/4番線の入り口へ案内し、プラットホームへの入り方を丁寧にレクチャーして去っていった。
迷い無くそこへ突っ込むと、ローブを着た連中がぞろぞろと蒸気機関車の停まるホームに溢れかえる光景に出て、あー魔法界だなーと思いました(小並感)。
途中にハーマイオニーのような子を見たが今はやめておく。どうせ学校に行ったら話す機会はあるだろう。
と。
「っ」
視界の端を、あの……ダイアゴン横丁で見た、黒髪の日本人が。
掠めた。
「……………。」
このタイミングでか。
ドッドッドッ…と不穏な音をたてて早鐘を打つ心臓に、ごくりと苦い唾を嚥下する。
今度はちゃんと視線をそちらに向けるが、既に列車に乗り込んだ後かそれとも──人混みに紛れたか。どちらにせよ、もうそこにそいつは居なかった。
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