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ぶすっとしながら助手席に乗った私と、ぶすっとしながら後部座席に乗ったハリーに夫妻は気まずそうにしていた。
娘が突然キレて、手頃なハリーに八つ当たりしたのは当然見てとれたのか、何も言わない。
そうこうしてる内にキングズクロス駅に到着する。
旅行用のトランクとボストンバックを自分のカートにあまり丁寧ではない力で放り込み、ハリーも視界の端で同じようにしてるのを見ながらダーズリー夫妻に向き直る。
「………じゃ。」
それは、普段野私からは想像もつかないほどに呆気なく、また不作法な別れの一言だった。
ペチュニアさんがまたわあっと泣いて、
そんで、
私はぶちぶちっと機嫌を更に悪くした。
「何でそうやって泣くんだよ!」
気付けば怒鳴り散らしていた。
もう何なんだ。
今まで親にも、夫妻にも怒鳴った事なんて一度も無かったのに。
ビクッとしたペチュニアと、おろつくバーノンに只管苛立って睨み付ける。
と、ハリーが私の横っ面を張った。
おおう。
「いい加減に八つ当たりやめてよダリア」
こっちも我慢の限界だよ、とハリーが静かに言い放つ。
張られた頬はぱあん!といい音がした。口の中切れてら。
「てめぇ…」
睨み付けても、ハリーはびくともしない。何コイツ。
舌打ちする。
口の中の血を吐き出して唇を乱暴に拭う。
急に馬鹿らしくなったし、往来で当たり散らす自分が恐ろしくみっともなく感じた。
それでも苛立ちは収まらない。
「ダリアちゃん…」
か細い涙声でペチュニアさんが娘を呼んでいる。
「ごめんなさいね…ごめんなさい……」
「…………行ってきます」
低い声が出た。ハリーはバーノン親父の隣に立って私を見ている。バーノン親父も私を見ている。
もう一度、低く………じゃあ。という言葉が出て、私はカートを押してずかずかと前へ進んだ。
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