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「日曜はいい日だ」
「そうだね。世の中が休日であり、パパが休みで家にいるからこそこのおからクッキーが出るという私に優しいお茶会が家族で楽しめるという点において、日曜日とは大変素晴らしい。」
日本……私の居た平成の世(は、もう始まってるか。まぁ言いたい事は伝わるだろうからいいや)だと尚更いい。アニメが盛り沢山。
いきなり日曜はいい日だ等と言い出したバーノン親父に、とうとうボケが始まったかと内心で思いつつ、恐らく奴とは全く違う理由で同意を示す。
ノンシュガーの紅茶を嚥下すると、ハリーが私の顔をじっと見ていることに気が付いた。私は敢えてそれを無視し、おからクッキーを頬張る。
「そう、実にいい日だ。
日曜は郵便は休み。今日は忌ま忌ましい手紙なんぞ──」
喜々としてもう一度日曜いい日発言の理由を説明しようとしたバーノン親父。その後頭部に黄色がかったものが四角いものが直撃し、ボケた戯言は中途半端に止まった。
あ、そうか今日か。
次の瞬間、物凄い勢いで暖炉から手紙が大量に吹き出した。手紙の洪水が起きてから、私はやっとこの日が何なのかを思い出す。気がつけば7月が終わろうとしている。
好き勝手に舞い踊る手紙から逃れるために廊下に避難すると、バーノン親父が必死に平静を取り繕いながら家を出る事にすると話し出した。
口ひげの半分を引っこ抜いた豚親父の余りの混乱振りにケケケと内心で笑う。メシウマだ、他人の不幸は蜜の味。
与えられた5分で部屋の戸締まりを確認し、下着を多めに衣服類と、非常食と飲み物を旅行用のトランクに詰めて階下へ降りる。
落ち着いているハリーと私は5分ギリギリに玄関前に立った。が、ダーズリー夫妻はまだだ。
「5分たったな。……さてハリー、うちの豚親父はとうとう頭がパーンしたようだが」
「その言い草ってどうなの?」
「まぁ、多分何とかなると私は予測するぜ。」
口角の片方を吊り上げて笑えばハリーは溜息をついた。
「……手紙を叔父さんに渡したのは、ダリアに考えがあっての事なんだよね?」
「あぁ?当たり前だろ」
「じゃあ、僕はダリアを信じるよ。ダリアの何とかなるって予測を」
「……そーかい」
全幅の信頼とは、斯くも気持ち悪いものなのか。
私はハリーの額を指弾し、にやにや笑った。額を抑えてぽかんとした顔をするハリーに、また笑った。
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