二次 | ナノ


▼ 07

ダーズリー夫妻は非常口案内の下でおろおろと周囲を見回していた。私達の事を探しているのだ。

「パパ、ママ!」

すんなり合流できたのは良かったかもしれない。探し回る嵌めにならずに済んだ。

「ダリアちゃん、無事だったのね!ピアーズ君もいるわね、ハリーも」

「うん、ガラスの傍にはいなかったから皆無事だよ。ママ達は?」

「大丈夫よ。さ、早くここから出ましょう!」

走り出した先には信じられないような非常事態が広がっている。阿鼻叫喚の地獄絵図ってこういう事だろうか。
全ての爬虫類が逃げ出している──小さな子供を丸呑みできるほどの大蛇、毒蛇、鰐、毒蜥蜴が割れたガラスから這い出しているというのは、とんでもない恐怖だった。ぼんやりしてたら死ねる。

幸いにも途中、目を覆いたくなるようなシーンに遭遇することはなかった。飼育員の誘導に従って、薄暗い館内を駆け抜けて行く。他の入館客と共に飼育員が合流しているから、私達が最後まで残っていた一団なのかもしれない。
もうすぐ入り口の筈だ。非常口の案内灯が光っているのが目に入り、視線を下げた。
そして、

「!」

絶望的な光景が広がっている事に気がついた。見なきゃよかった。

「毒蛇です!毒蛇がいます!止まってください!」

先頭を走っていた飼育員が裏擦った静止の声を上げた。通路の終わりにはうようよと蛇達が集まっていたのだ。──扉が閉まっているから外に出れず、しかし光に反応して集まってしまっているのか。

「後ろから鰐が来てる!もうダメだぁ!」

背後からの悲鳴に後ろを振り向けば、よりによってこの爬虫類館で一等大きな鰐がこちらへ向かってきている。冗談ではなく頭から血が引いた。
どうすんだよこれ。本当にどうするんだ。目が回るような感覚に、じんと手足が痺れる。


その時だった。


「 退け! 」

シャア、と隣から蛇の威嚇音のようなものが聞こえた。それを聞いた蛇達がザッと道の端に除ける。──ハリーだ。蛇語を喋れるのだった、と、今更思い出す。



爬虫類館から転げるようにして飛び出した私達は、青褪めた顔で互いの姿を確認した。

「皆無事だな?」

「無事──だと言いたいけど、ピアーズが顔を殴られてる。
不良がいたんだ。物陰でそいつらに絡まれてたから、逆に助かったよ。」

バーノン親父の声に答えた私は、その視線をペチュニアさんへ滑らした。
出口の前でハリーの傍にいたのは、私とペチュニアさんだけ。つまり、ペチュニアさんはハリーのパーセルタングを聞いた事になる。

「ピアーズ君、大丈夫かね?」

「はい……」

真っ青な顔でピアーズはなんとか頷いた。既に夏といっても差し支えない季節だが、全員が冬の日のようにがたがたと震えていた。かく言う私でさえ、寒さすら感じている。

「……バーノン、帰りましょう。あんな事があったんだもの。ダリアちゃんも……」

尤もな意見である。流石にこんな事があった後に、和やかに動物園を見ることは出来ない。無理。普通に無理。

「パパ、ママ、帰ろう。ピアーズの殴られたとこ見なきゃならないし、家でボードゲームでもやって、晩御飯には美味しいもの食べたいな。」

だから私はペチュニアさんに乗る形で今日の代案を出した。
というか、私は晩飯にケーキが出りゃ誕生日なんて満足出来るのだ。祝って貰えんのは嬉しいけど一日かけて祝うのも「そこまでしなくても…」と思うし、おじゃんになっても駄々をこねるような年ではない。私としてもダリアとしても。

それでも、帰りの車内はお通夜じみた沈黙に満ちた。払拭する気にもならない。
存外私も精神的な疲れが大きかったようだった。

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