二次 | ナノ


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「日本に行きたい」

始まりは、稽古の休憩時間中の私の一言であった。



日本旅行のお誘い、というごく直球なタイトルのプリントが渡されたのはジューンの終わり頃である。六月って言葉に違和感を覚え始めた、ヤバいぞこれは。

「あの、師範、これって?」

プリントに記載された内容があまりに突飛に感じられたのか、ハリーがそう目の前でにこにこ笑っている師範に尋ねた。

「書いてある通りより、ハリー。勤勉なる我が弟子達に私の母国をより良く知ってもらいたくて、ね。」

ばっちん、と見事なウインク付きで茶目っ気たっぷりに師範は答える。どうにもこの人は日本よりもアメリカンな気質が感じられる。本人の言葉によれば、学生時代は殆どアメリカに居たそうなので、そこに彼女のあっけらかんとした態度は由来しているのだと思う。

「書いてある通り、日程は七日間とちょっと短いんだけど、950£だからね、安いよ。考えてみてね」

950£って事は、今日の新聞だと確か1£=275円くらいだったから……26万ちょい?!やっす!!

「師範って最高」

その時の私の笑顔は何よりも輝いてたとはハリーの談である。



「行こうぜ日本。鍋食べたいなー」

「ホントに行くつもりなの」

「無論。相場より50ポンド以上安いんだぜ。行かない手はない」

夕食後、私はハリーの髪にアイロンを当ててやりながら、今日の師範のお誘いについてハリーに話を振っていた。
お祭り行って焼きそばとか食べたいなー。花火も見たいし、おねーさんナンパしたり?あー絶対楽しい。

「そりゃ君が日本にハマっているのは知ってるけど……」

炊飯ジャーを家に置かせる位だし、調味料もmisoだのsoysourceだの……とハリーは続ける。それだけじゃないぞ。私の部屋の窓には風鈴が下がっているし、和柄の服が着たいから今服飾を勉強しているし、他にもあるが多すぎるので割愛。

「ハマってるんじゃない、魂の母国だ。」

「はいはい、わかったよ」

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