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「あれ、先生、ミニキッチンを付けるんですか」
「ええ。女子寮の方だけですけれども。
二年前からフリットウィック先生が呪文学で料理に関する魔法を少し教え始めたので、それでキッチンをつけてほしいと希望が多く出ているんですよ。男子は一人としてそのようなことは言いませんが。」
「なるほど。」
私は今、シルバニアファミリーみたいな小さなドールハウスで遊んでいる。いやちゃんとマクゴナガルの手伝いしてるよ。
これは魔法のルームデゴールカタログの機能なのだ。カタログに乗った写真を杖先でつつくとそのミニチュアが寮を模した箱の中に出てくるのだ。楽しすぐる。
壁紙と窓枠とカーテンと床の組み合わせを只管試していると、マクゴナガルが私の横にそっと紅茶を置いた。
「もう少し暗めの色合いのほうが宜しいでしょうね、寝室ですから」
「でも先生、キッチンをつけるのであればワンルー厶のように寛ぎだす人は必ずいますよ。」
「ワンルーム?」
「リビングとダイニングとキッチンと書斎と寝室が纏めて一部屋になった家のことです」
「………キッチンは個別に着けるべきではなさそうですね」
私は無言で紅茶を啜った。少し濃いな。
マクゴナガルはその横で杖を一振りする。手元を覗き込むと、今度はそこにグリフィンドールの寮の模型が出来ていた。でかい。
「……何年か未使用になっている部屋が幾つかありますね」
「生徒数はここ数年減少傾向にありますから、余り部屋が出てしまうのですよ」
「この談話室のすぐ横のスペースは何ですか?」
「おや……物置、でしょうか。気が付きませんでた」
入り口を入ってすぐにある第一談話室の左側の、確か寮旗が掛けてある壁の向こうに、談話室の半分くらいの広さの部屋がぽつりとある。長年グリフィンドールの寮監を勤めている筈のマクゴナガルが知らないとなると、随分長い間放棄されていた空間らしい。
グリフィンドール寮は大広間ある建屋のすぐ横のでかい塔の殆どを陣取っていて、談話室は映画で見れるものの他に同フロアに廊下で繋がった三つがある。まぁ当たり前だ。グリフィンドール生は260人以上いるんだぞ。
で、左回りに談話室へ行く時は少々細長い廊下となっていて、右に伸びる通路とは造りが異なる。なるほどこのスペースのせいらしい。
「そろそろ今日は終わりにします。寮に送っていきますから、ついでにこのスペースを確認してみましょう。」
「はい先生」
寮旗を剥がした向こう側はただの壁のように見える。だが、優秀な魔女であるマクゴナガルにはそうではないらしい。五分くらい壁を見たり触ったりして、ふむ、と頷いた。彼女が壁の薄いシミのようなものを杖先で三回突くと、次の瞬間ポッカリと円形アーチが開く。
「流石に埃がひどいですね」
中はこじんまりとした石造りで、何となく魔法薬学の教室を思い起こさせた。キッチンにはいいかもしれない。
「改装して換気を考えて、水道くらいは引いてもらって……火は自分で何とかするか、魔女だし」
ブツブツと使いやすいキッチンへの変貌を考えていると、マクゴナガル先生が矢鱈と生暖かい目で私を見ていた。なんすか。
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