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「つまりさ、僕は君のせいで、自分の知らないことを馬鹿に出来なくなったのさ。」
「………マグルについて調べたのか?」
「屋敷しもべ妖精を使ってロンドンに毎日飛んだよ。全く便利かつ不便なものだった。電話とテレビに関しては、魔法使いのほうが愚鈍なのかと思ったくらいだ。」
「………今度洗濯乾燥機について教えてやるよ。で、お前のマグル観はどう変化したんだ」
まさか、あの服屋でのちょっとしたお喋りがこんな影響を齎すなど思いもしなかった。これがバタフライエフェクトって奴か?いや私とハリーが蝶々って柄かよ。
マルフォイを変えてしまったとなると何がどうなるかすら分からん。ハーマイオニーがグリフィンドールでなくレイブンクローに入っても可笑しくないくらい影響が大きいことを知らぬ間に取っているかも。
「マグル生まれへの迫害は危険だ。何故ならマグル生まれは科学と魔法の両方に親しむからだ。マグルは魔法が無い代わりに魔法よりも強大なものを作り上げているんだ。藪蛇どころか竜が出てくると思う」
「その意識は正しいだろうな。」
思わず笑ってしまった。私やハリーが普段考えてる所にまで辿り着いている。流石、高等教育を受けているだけあるな。ボンクラお坊っちゃんかとばかり思ってたぜ。
「………まさかとは思うが、ダリア、きみ、」
「うん?魔法で原爆を作る方法なんて考えてないぜ、全く考えてない。」
「………ゲンバクが何かは知らないけど、兎に角君が危険であることは知っておくよ。つまり、マグル生まれがそうであるってこと。」
ここまで黙っていたセレマが、堪えきれないようにクスクスと笑い始めた。まるでこの世のもので無いくらいに美しい笑みだ。
「ああ、セレマ、ごめんな。煩かっただろ?」
「いいえ……ふふふ、あまりにも………ふふ、」
笑いを噛み殺そうとするセレマをぽかんとした顔でドラコは見ていた。顔真っ赤だぞ。
なんだか面白かったので、ドラコの頭の上でそっとピースサインをしてみた。
堪えきれずにセレマが吹き出した。
汽車が漸く停まったのは、日がとっぷりと暮れた頃だった。和柄のパーカーと黒のパンツはそのままにローブを羽織る。ちなみに制服は存在しなかった。
だが私はまだマシな方だ。セレマのローブの中なんぞほぼドレスに近い。
暗闇の中へと汽車を降りると、カンテラを掲げたハグリッドが「イッチ年生はこっち!」と吠えている。薄暗い中、先頭に赤毛とワックスでセットされた黒髪が見えて、きっと黒髪の方は無表情に苦虫を噛み潰したような色を浮かべてハグリッドを見上げているのだろうと思った。
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