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それは、奇跡であり運命の出会いであった。
非魔法族、自然的科学世界の未来を故郷とするダリアと───超自然的な力…魔力、魔法の最奥に息衝き生きるその少女が────天文学的な数字の確率で、しかしこれほどまでなく因果律に則って、この日この時この場所で。
確かな邂逅を果たした、世界の両端で在りながらその中間に属そうとしている二人の─────始まりで、ある。
少女はセレマと名乗り、私もダリアとだけ名乗った。
すげー美少女……。
シルクだろうか、滑らかで光沢のある白いワンピースのような形のローブに、柔らかな木々を連想させる深い緑のストールを纏う。意匠は繊細。
端々に散りばめられた宝石細工も溶け込むように存在を控えめに煌めかせる。まるで……
そうだ、まるで………
「トールキンのエルフ……」
星の瞬くような瞳が私の目を写した。
「………失礼。余りにも、君がトールキンの描いた物語に出てくるエルフのイメージそのままだったから……いや、」
「彼は素晴らしい作家でした…。そして、我らが友人でした。」
知ってるんかい!
思わず突っ込んでみたが、実際の私は息を飲んだ。
この世界ではトールキンと魔法族に繋がりがあったのか。無論、彼の存在のほうは調べ済みだ。
「彼の作り出す物語には、言葉には、魔力が込められています。
彼は魔法使いではありませんでしたが、並の魔法族よりもアニマ・ムンディに近付き、語る能力に長けていました。」
「知らなかったな」
「エルフや我等しか知りえませんよ」
魔法族の子らは気難しい者が多いようですから───ふふ、と笑うセレマは爆弾を私に投げた。
エルフいんのか。あと、我等とはどなた。
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