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「眠れないのか、ハリー」
「……ダリア………」
夜中。
窓辺に座るハリーに、声を掛ける。
私はハリーの傍にテーブルと自分の分の椅子を運び、テーブルの上に自分の荷物からトランプを出して放り投げて。
「大富豪でもやらない?」
にっ、と笑った私に、ハリーはトランプを手に取り切り出した。
次の日もまた、バーノン親父の奇行は続いた。
夕方になって海岸近くでバーノン親父に車に閉じ込められたときは、本気でやばいかと思った。
私にも魔力があるって事は、何が起こるかさっぱり分からないしさぁ。
あぁ…今日のアニメ見たいんだけどなぁ……。
そういえば、明日はハリーの誕生日じゃ無かったか。
家じゃケーキ出してやるくらいしか出来なかったから、いつもハニー達と公民館借りてパーティ開いたっけ。……正直に言って、自分の誕生日より楽しいのは間違いない。
戻ってきたバーノンさんは、機嫌よさ気に海の孤島のボロ小屋に私達を連れて行った。益々危ない。
ポテトチップス一袋とバナナ四本という、酷い飯を食わされた後、ダーズリー夫妻は二つある部屋の内の奥の部屋へ引っ込んで行った。
外は嵐。毛布に包まりながら寒さに沈黙する私とハリーのせいで、波と風と雨の音が響く。
「…………はぁ…」
自然、溜息が漏れた。
腹は減ってるし寒いし、外は煩いし小屋の中の匂いが酷いし、マジで寝る気にもならん。
仕方が無いので、トランクから非常食を引っ張り出した。ハリーにもそれを分けて、二人で食べる。俺とハリーは成長期なんだぜ、身長伸びなくなったらどうしてくれる。
天然水をこくこく飲んで、さてどうにか暖炉に火は付けられないかと思案する。
んー………。火の種になるようなもんが無いな。諦めよう。
ボロソファに一枚だけ毛布を敷いて、そこに座り込む。時計を見れば既に時刻はPM11:58だった。
「ハリー」
「ん…何」
「明日、ちゃんと家に帰れたらケーキでも焼いてやるよ」
「……ありがとう」
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