俺はついこの間B級に上がったばかりで、実力ではA級なんてまだまだだけど、諦めてはいない。一応正隊員、みたいな位置に甘んじることはない。なかなかランクも上がらないけど、俺が腐らずにやっていけてるのは、アタッカー個人ランク2位の風間さんの存在があるからに他ならない。俺は隊員には結構多い、近界民に襲われたところを助けてもらって、憧れて入隊したクチだ。俺の場合それが風間さんだった。いつか必ずA級に上がって風間さんに手合わせしてもらうんだ!と、それが奮闘する原動力になっている。一度だけ、B級隊員の指導を風間隊にしてもらったことがあって、少し言葉を交わしたときは、もうその後一週間はハイだった。

そんなある日、というか今日、風間さんの個人ランク戦を見に行く機会ができた。風間さんがランク戦するんだって、と教えてくれた友人に大感謝。今度ジュースを奢ってもいいくらいだ。
5本勝負で、相手は草壁隊のアタッカー。緑川ではなく、春駒旭というらしい。聞いたことはない名前だ。
モニターに映った風間さんと、あと、女の人。春駒旭って、草壁隊にいるからどんな奴かと思ったら、こんなヒョロっちい女なのか。風間さんもよく受けたなと思うと、ちょっと悔しい。
モヤモヤしながらランク戦を見ていると、やっぱり草壁隊でアタッカーをやっているだけはある。女性なぶん身軽なんだろうか、身のこなしがやたら軽くて、不意打ちもかわした。結局3本先取で風間さんが勝ったけど、ブースは大いに湧いていた。おお、とか、さすが、とか。風間さんが勝った時、ホッとしたというか、ほらな!と思ってしまった自分を心の底からバカだと感じた。
出てきたふたりは観衆を物ともせず、なんともマイペースに会話をしている。春駒さんは小柄な風間さんと同じくらいの身長で、美男美女っていうんだろうか、陳腐だけど。

「あーあ、また負けちゃった」
「3年早い」
「リアルな数字やめてよ」
「5戦目まで持ち込みたかっただろう?」
「鼻で笑ったな?」
「まだまだ勝たせん」

なんだ、なんか、随分親しいというか。距離感も近い。風間さんあんな表情もするのか。
それにしても見れば見るほど、春駒さんは美人だということに気がつく。目鼻立ちがすっきりと整っていて、脚も長いし、顔も小さい。とてもさっきまで風間さんをバッサリやったとは思えない。でも意思が強そうな目をしている。風間さんに似てる。

「ん、」
「えっ」

うわ!うわ!風間さんが俺に気づいた!?
あんまりジロジロ見てたからだろうか。なんにせよ覚えていてくれたのか。ああ、天にも昇る心地だ。そのくらい俺にとって風間さんはスゴイ人なんだ。

「こっ、こんにちは!」
「ああ」
「知り合い?」
「この間指導したB級隊員だ」
「へえ珍しい、覚えてるなんて」

春駒さんの「珍しい」という言葉にさらに舞い上がる。嬉しくてしょうがない。憧れの先輩に顔を覚えられてるなんて!
ふわふわした気持ちで去ろうとしたら、春駒さんが「ねえ」と言った。

「蒼也と互角に戦いたいでしょう?早くA級に上がっておいで」
「えっ、え?俺ですか?」
「おい、旭」
「私も蒼也も待ってるよ」
「……え、」

……春駒さんの笑った顔もすごくきれいだ。
なんだ、めちゃくちゃいい人じゃないか。
というか、蒼也って、風間さんの下の名前だよな。旭は、春駒さんの。親しいにも程があるような気がする。もしかして、まさか、いやそんなわけない。だってふたりともA級の隊員じゃないか。もしかして、まさか、が本当だったら、示しがつかないだろう。本当だったら俺はこんなに風間さんに心酔してない。
やばいな、と思った。春駒さんの、あんまりにもきれいすぎた笑顔が、瞼の裏に焼きついて離れない。

「おい、旭」
「なに?」
「贔屓と誤解されるような発言は慎め」
「B級にみんな期待してるのは本当でしょ」
「あ、ありがとうございます」

風間さんが咎めるけど、春駒さんはにこにこしたままだ。

「…旭。お前、城戸さんに呼ばれていたんじゃなかったか」
「あっ、そうだ!蒼也、なんでランク戦受けたの!怒られるじゃん!」
「俺のせいか、それ」
「この間も約束の時間すっぽかした」
「……ついていって弁解してやる」
「本当!助かる!」

目の前で、春駒さんが風間さんの肩をぐいっと抱いてそのまま横から抱きついた。……あれ、なんか今、風間さん俺のほう見てドヤ顔した?
おふたりさんが公衆の面前で仲よさげにするから、B級隊員は顔を赤くして(こっそり見て)いるんですが。対してA級隊員の先輩たちはやれやれって顔だ。これ通常なのか?

「よし行こう、すぐ行こう。怒られる」
「引っ張るな。お前はまず提出する書類を準備してこい」
「あっ、はい」

サッと走り出す春駒さんを風間さんが早足で追う。慌ててお疲れ様ですと言おうとした時、風間さんはすれ違いざまに呟いた。

「いい女だろう。惚れるなよ」

「……!?」


……やっぱり、おふたりは、そういうことなんですね。
風間さんはだいぶ嫉妬深いというか……。なんか、案外ふつうの人だった。
物凄くお似合いだったし、お互い恋人はA級の隊員だし、誰も手は出せないと思うんだけどな……、とりあえず、末長く爆発しろください。そんな気持ちで二人の背中を見送る俺の口元は緩んでいたのだった。


「あのB級の子に何か言った?」
「何も」
「うそ」
「いい女だろう、と」
「褒めても何も出ないからね」
「夜は空いているはずだが」
「このムッツリスケベ」
「さあ、城戸さんに怒られに行くか」
「あーー…歩を進めたくない」



風間さんと彼女とB級隊員
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