「旭、携帯鳴ってね」
「ん…メール」
「だれから?」
「透」

奈良坂と旭は幼馴染で、なんとなく雰囲気が似てる。類は友を呼ぶって言うやつなのかはわかんないけど、だいぶ昔からの付き合いみたいだし、似た感じになってしまうってのは、あるかもしれない。高校生で異性の昔馴染みとここまで仲が良いのは珍しいくらいだ。互いに似てるから波長が合ってるんだろうか。
奈良坂とは違って、旭はおれらと同じボーダー提携の普通校だけど、進学校に進んでも全然支障はなかったと思う。そのくらい成績はいい。なんで進学校に進まなかったのか聞いたら、「帰る時間が透と一緒になると色々不都合があるから」だと。何がどう不都合があるんだ。帰る方向が一緒だから冷やかされるってか?普段のこいつらを本部で見る限りはそんなこと気にしてない様子だから、それはないか。結局のところよくわからない。そんなこと普通にサラッと言うから、『進学校に通ってる“透”って奴と春駒は付き合ってんじゃないか』って噂は立ってんだぞ、お前らの知らないとこで。ちなみにおれもその噂には乗っといた。お前ら絶対付き合ってるだろ。

「奈良坂なんて?」
「んー」
「オイオイ携帯閉じんな。返信は」
「しなくてもいいよ」

こんな感じで、互いの扱いが結構雑なのも、長い付き合いゆえだと思う。
こいつらが仲良いことは隊員の間でも有名。だいぶ有名だ。こっちでも、二人は付き合ってるか否か、本人たちのあずかり知らないところでささやかな議論が行われている。その中でもスナイパーの奴らの情報はかなり有力。二人とも同じポジションだから。訓練場でも仲良さげらしいし、アレは絶対!と熱弁するのは大抵スナイパーの奴だ。
付き合ってても全く違和感はないというか、あーやっぱり?と納得する奴らの方が多いと思う。だからホラ、おれといるだけで隊員が旭のことチラチラ見て行ってんじゃねーか。

「ランク戦しようぜ」
「私スナイパーだよ」
「元ガンナーだろ」
「元だよ」
「いーじゃんランク戦しようぜ」
「今日早く帰らないと」

携帯をポケットにしまう旭は既に換装を解いた生身で、もう帰る準備はできてるらしい。つまんねえの、と呟く。
立ったり歩いたりしてる時に下を向くのはこいつの癖だ。靴の爪先らへんを見てるんじゃないだろうか。見ようと思って見てるんじゃないんだろうけど。
伏せていた長い睫毛が、ふ、と上を向く。そのまま顔を上げて通路の先を見据えたから、髪がさらっと肩に流れた。なんだ?いきなり顔上げて。
するとその通路を奈良坂が歩いてきた。素直に驚く。

「透」「旭」

おれは結構、この二人が名前を呼びあうのを聞くのが好きだ。今まで何度も数え切れないくらい呼びあった名前だから、ものすごく自然に、舌に馴染んだ感じで、スルッと口から零れ落ちるような。
二人ならではって感じのそれにちょっと和んでいると、会話を聞いてまた驚いた。

「今日遅いんだよね?」
「そうだな」
「晩ご飯どうする?」
「任せる」
「ん」

今日遅いんだよね?って。なんで知ってんの。隊もちげーのに。そもそも奈良坂の帰りが遅いのがどう旭に関係すんの?
晩ご飯どうする?って。一緒に食べんの?ていうか旭が作ってやんの?
さすがのおれもキャパオーバーしそうだ。頭にハテナが詰まる。

「鍵は?」
「今日お母さん遅いんでしょ」
「ああ、そういえばそんなこと言ってたな」
「帰ったらちゃんと鍵閉めてね」
「わかってる」
「どうだか」
「忘れてたら言ってくれ」
「そりゃあ」

付き合ってるまではあーやっぱり?で済ませられるけど、これはもはや同棲してるんじゃないかとすら思わせる。
スナイパーの奴ら『主に古寺)が少し青ざめつつ“もしかしたら同居してるかもしれないんです!”って言ってたのは、こういう。
いや、これは古寺じゃなくても思うだろう。確定事項になった気がする。奈良坂と旭は付き合ってて、半同棲してるってこと。後者については、probablyぐらいの確率で。

「私先に帰ってるから」
「気を付けてな」
「うん。出水バイバイ」
「あっ、おう」

旭はおれに手を振って小走りで本部を出て行った。じゃあ俺も任務があるから、出水お疲れと言って奈良坂は颯爽と去っていく。
おれの前で普通にあんな会話するってことは、別に隠す気はないのか。それにしても高校生のカップルが同棲って、だいぶ進んでんな。感心したような呆れたような拍子抜けしたような。

「よぉ弾バカ。ヒマしてんの?」
「槍バカかよ。お前任務じゃねえの」
「そうだけど、奈良坂見なかった?」
「え?さっきまで旭と話してて、もう行ったけど」
「マジ?オレも行こ。…あ、もしかして旭と奈良坂の会話聞いた?」
「あー聞いたけど…あいつらなぁ…ちょっとぐらい隠しゃいいのに」

そう思わね?と槍バカを見ると、クッと喉を鳴らして笑った。何がおかしい。

「と、思うじゃん?でもあいつら付き合ってないんだよな」
「……は?」
「おっとオレそろそろ行かねーと。じゃーなー」
「は、ちょ、……はああ?」

……アレで付き合ってすらねーっての?
おかしい、おかしい、おれがじゃなくて、あいつらが!
思わずがしがしっと頭を掻く。ちくしょう。こないだ槍バカと見たB級ホラーよりゾッとした。決めた。明日旭に、どういうことか、とことん聞いてやる!


「奈良坂さー、あんま誤解与えるような会話人前でしないほうがよくね?」
「?…ああ、旭とのことか」
「自覚はあんのな」
「わざとだから」
「え」
「言い寄る男が減るだろう?」
「あっ、そういう?でも付き合ってないじゃん」
「まあ、今はまだ、な」



奈良坂と幼なじみと出水
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