行動派とか懐疑派とか破天荒とか言われる俺と対照的に、姉貴は根っからの慎重派だ。同じ親に育てられたのか、未だに甚だ疑問ではある。危ないことはしない、言われたことはシッカリ守る、やりたかろうがそうじゃなかろうがやるべきことはちゃんとやる。学校での評価は基本的に『優等生』『おとなしい』『自主性に欠ける』。そんなんじゃなくて姉貴はクソ真面目なだけなんだけどな。自主性に欠けるってなんだ、と思った。それなら自主性有り余ってる俺は褒められて然るべきじゃねえの?全く世の中ってもんは理不尽で矛盾だらけでそれを子どもに押し付けやがる不躾さがあって嫌いだ。そんな中でなんでそれに従って窮屈に生きてられんだか。もっと楽に生きりゃいいのに。


「当真さん、C級隊員の目につくところでサボるのは控えてくれ」

奈良坂と姉貴は似ていると思う。クソ真面目なとこ。雰囲気が似てる。だから奈良坂がボーダーに入隊してきたとき、いけ好かねえなと感じた。こいつも正しいと思う何かのために自分の意思なんて簡単に捨てられるやつなんだろうと思うと、胸くそ悪い。そんなの姉貴だけで十分だっての。ガキの頃、俺がどんなに手を引いてもなかなか動こうとしない姉貴に苛立ったり、失望したりしたことを思い出した。

「へいへい、マジメだねえ」
「みんながみんな当真さんみたいな天才じゃないので」

こんなとこまで似てやがると、いっそこいつと姉貴が本当の姉弟なんじゃねーのかと思う。無駄にキレーな顔してるのも一緒だし。
みんながみんな、勇みたいにすごくないんだよ。姉貴の声で脳内再生される。
わかんねえなあ。凡人が天才を越えられないのが当たり前なんだから、限りなく天才に近い凡人に上り詰めりゃいいんだ。やってやるって強い意志がありゃあ、サボってる天才を目にしたって、サボったりはしないんじゃねえのか。その筆頭がお前ら二人じゃねえのか。結局は他人事じゃねえか。
そのことはきっと奈良坂も姉貴もわかってんだろうが、見ないフリしてるだけだ。たとえ間違っていることをわかっていても、自分が正しいと思う何かのためなら、本当に正しいものだって捨てちまえる。ったくよ。

「俺やっぱお前とは相容れねーなあ」
「こっちのセリフです」
「お前、俺の姉貴に似てんだよ」
「……!?」

は。なんだその顔。赤くなる要素どこにあった。俺なにかワリーこと言ったか?ただでさえ嫌いな俺の、奈良坂が知ってるともわからない姉貴に似てるって言われたことか?でも事実だし。姉貴のこと知らねえならいずれ会わせてやるし。

「…俺が旭さんに似てるって?」
「なんだ、姉貴のこと知ってんのか」

旭さん呼びか。へえ。けっこー仲いいんじゃん。姉貴からそんな話ちっとも聞かねえけどな。もともと口数多いほうじゃねえし、話しかけるのはいつも俺からだけど、話し出すと溜め込んでたモン全部吐き出すみたいに話すくせに。あーあそんなとこまで似てんのかよ。こいつと知り合ったとき、俺に話したくてしょうがなかったんじゃねえの?
姉貴は俺より二つ、奈良坂にしてみれば三つ年上だ。太刀川さんと同じ二十歳。下手したら奈良坂と同じくらいに見られそうな外見はしてるが、どこで(ボーダーに決まってんだけど)どうやって知り合って、名前で呼ぶくらいには仲良くなってんだ。確かに半年前まではスナイパーやってたけど、今は開発部に移ってるってのに。接点なんてそう無いだろ。

「旭さんのこと嫌いなんですか」
「そりゃ嫌いじゃねーけど、見ててイライラしたりはするな。お前は好きなわけ?」
「……あんたとは正反対なので」
「いちいちムカつく奴だな…好きなら好きってハッキリ言えや」
「!」
「…あれ、当たり?」
「……ハメたのか」
「おっとハメるなんて人聞き悪りいこと言うなよ、カマかけてみただけだろ」

奈良坂はまた顔を赤くして目を背け、チッと舌打ちした。聞こえてんぞコラ。
実際カマをかけただけで、本当にこいつが姉貴のこと好きだとはちっとも思ってなかった。いや、ちっともってのは嘘だな。さっき似てるって言ったとき、明らかにオーラが綻んだから、まさかとは思ってたけど。へえ。ふうん。あんな女が好きなのかこいつ。やめとけよ。俺だったら姉貴なんか絶対やめとくけどな。

「お前、姉貴のどこが好きなんだよ」

去ろうとしていた奈良坂の背中に声を投げると、振り返って、もう一度舌打ちした。

「……あんたと似てないところが」

奈良坂はため息をついて、再び背を向けて歩いていった。
言うようになった。それなりに積極性も自主性も出てきた。姉貴よりよっぽどいい。クソ真面目なのは変わってねぇなと、遠ざかっていく、すっと伸びた背筋を見て思う。
多分姉貴に会いに行くんだろう、今の時間、姉貴は昼休みだ。腹減った。そういや今日の昼、姉貴が作った弁当だっけか。あんな奥手で日陰っぽい姉貴が、愛妻弁当とか、マジメに作る日が来るのかねえ。あー、でも、

(……あいつが兄になんのは、ちょっとばかしいただけねえな…)



「今日さぁ、奈良坂に会った?」
「…!うん、会った。お話ししたの」
「(嬉しそーな顔しちゃってまぁ…)あいつどうよ、姉貴から見て」
「…すごく、いい人。努力家で、真面目で、誠実で、とってもいい人。話が合うの。勇とは真反対かもね」
「はっ、知ってるよ」



当真の姉と奈良坂と当真
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