B級11位荒船隊隊長、荒船哲次さん。ポジションはスナイパーで、使用トリガーはイーグレット。少し前までアタッカーだったときは弧月。もちろん私のトリガーもイーグレットだ。イーグレットを構える横顔もかっこいいけど、弧月を振って戦うのはレアなぶん、余計にすてき!誕生日は9月9日のおおかみ座、18歳、血液型はB型。身長は、177センチに近い176センチ。自販機で買っているのはお茶が多いからきっと好きなんだと思う。あと好きなものといえば、お豆腐、特に冷奴と、お好み焼きかな?それとアクション映画が好きだから、言葉遣いがちょっと荒くて、荒船さん自身もアクション派のスナイパー。ビルから飛び降りるって、すごい度胸の持ち主。さすが。おまけに成績も良くって、進学校に通っている。そうそう、実は犬が苦手で泳げない、とっても可愛い一面も。ああ、荒船さん、なんてハイスペックですばらしい人!私はそんな荒船さんが好き好き大好き。たとえ喋る機会がほとんど無くても、私はその姿を見られるだけで構わない。本当に荒船さんのことを好きだからこそ、姿を見られるだけで満たされる。誰にも、何も迷惑なんてかけてない。荒船さんがボーダーという同じ空間にいるだけで、私はもうこの上なく嬉しい。

ひとつだけ不満がある。普段から声をかける女どもはいいとしてーーーだって荒船さんはかっこいいから仕方ないものーーーふと見るといつも荒船さんの隣にいる、迷惑極まりない女がひとり。A級隊員の春駒旭さん。A級ならA級らしく同じランクの人と付き合えばいいのに。荒船さんだって気を使ってしまうじゃない。A級のくせに、事あるごとに荒船さんに声をかけて、いくら好きだからってそれはないでしょう。ああ腹が立つ腹が立つ。これは嫉妬なんか醜いものではなくて、私はただ荒船さんの心中を思うと腹の虫が治まらないわけで。
まあ、でも、私は、正しいものはちゃんと認められる。春駒さんは私なんかよりずうっときれいで強くて、荒船さんの隣にいるわりにはそんなに執心している様子もなく、隊員の面倒見もいい。隣に立てるくらいにはこちらもハイスペックだ。話しかける勇気すらない私が、春駒さんに何か言えた立場じゃない。わかってる、わかってるけど!恋する乙女は盲目なんだから、話しかける勇気すらないんだから、いいじゃない、自分の中でだけ正当化したって。結局、誰にも迷惑かけてないんだから。なんて、私は誰に弁解しているんだろう。

私の癖というか、もう治らない習性というか。熱しやすく冷めにくい。
荒船さんのことは変わらず好き。迷惑をかけるつもりはこれっぽっちもない。でも、よくよく考えると、私がポンとイメージする荒船さんの隣には、いつだってあの人がいる。勝ち目なんてないし、そもそも私は同じ土俵に立ってすらいないけれど、荒船さんのことは、変わらず、好き。いっそ冷めてくれたらいいのに!なんでこんなにつらい思いをしなきゃいけないの。答えは簡単、恋をしてるからだ。同じ恋をしていても、春駒さんはとっても幸せそうなのに。
見ていればわかる。考えればわかる。荒船さんと春駒さんは好き合っている。こんなこと気がつかずに、ずっと、ただ荒船さんに胸をときめかせながら見ていられたら。無理に決まってるけど。私だって女だもの。どうしたって、気がついてしまう。
こうなったら、って感じだった。もう、半分ヤケだった。荒船さんがC級隊員を指導してくれる日、その指導が終わってから、思い切って声をかけてみた。初めて声をかける内容があの人のことなんて皮肉ね。バカみたい。もう、こんなことしかできないんだわ。

「あ、荒船さん」
「…?どうした?」
「…あの、春駒さんって」

紅を乗せたように、荒船さんの陶器のような白い頬にすうっと赤みがさした。わかっていても、つらい。でもどうせなら、うんと傷ついて終わってやろう、と思っていた。滅多斬りにされてもいい。とにかくやることやって冷めてやろう。

「……やっぱり、お付き合いしてらっしゃるんですか?」
「ばっ…、……春駒さんと俺はそういうのじゃない」

顔を真っ赤にしてそわそわする荒船さんは、とってもかわいらしく見えた。恋してる。
荒船さんも、私とそんなに変わらないじゃないか。好きな人を全力で好きなだけなんだ。それがどんな形であろうと、私も荒船さんも春駒さんも、それぞれ恋してるんだ。
強化ガラスのハートの端っこが、パキンと音を立てて割れた。今は、落ちた欠片に構っている暇はない。

「私、てっきりお付き合いされてるのかと」
「……俺じゃまだあの人に不釣り合いだ」
「不釣り合い?そんな」

そんな。
私から見た荒船さんはすごく魅力的なのに。自分に自信がなくなって、言いたいことが言えないのも、恋してるせいだ。
私から見た春駒さんは荒船さんに恋してる。なんて言ってもわからないのか。そうよね。荒船さんは、私が荒船さんに恋してることに気づいていないんだから。

「荒船さんはかっこいいです。それなのにずっと尻込みしてて、気づいたとき、誰かのものになってたら、どうするんですか?」

荒船さんの目が丸くなっている。

「もったいないですよ。わたし、私は…荒船さんには、幸せになってほしいです」

声が震える。
荒船さんが呆気にとられている間に、失礼しますと口早に告げて、走って去った。廊下を走っているうち、涙が目尻に盛り上がる。
はあ、はあ、息が荒くなる。誰もいないがらんどうの廊下で立ち尽くして、顔を手で覆った。嗚咽は漏らさない。慰める人なんてこの場に誰もいないのが、悲しいようでありがたいようで。拳で力強く涙を拭うけれど、涙は次から次にこぼれる。

「大丈夫?」
「、!」
「どこか痛い?何かあったの?」

突然眼前でかけられた声に顔を上げると、もう、なんてタイムリーな。どうしてこんなタイミングで来るの。春駒さんは私が泣いているのを見てどこか慌てたような様子だけれど、私が何も言う気がないのを悟ったのか、口を開いた。

「……何かあったら、B級でもA級でも気にしないで、当たっていいんだよ」
「…当たる?」
「思いっきり蜂の巣にされるのも、天才ふざけんなー!ってぶっぱなすのも、結構スッキリするから…、たまには当たって砕けて、心機一転して、また頑張るぞ!って」

私の頭に手を一瞬ふれて、春駒さんは私の横を通り過ぎていった。なんだか手馴れている。きっとこんなこと日常茶飯事なんだろう。こんなこと、するから。荒船さんだって不安になってるんじゃない。余計に荒船さんのライバルを増やしてるんじゃない。
好きな人が好きな人を好きにはなれない。私はそうだ。これでも誰にも迷惑をかけていないもの。いいでしょうこのぐらい。

「……あーあ」

荒船さん、好き、好き、大好き、好きでした。
ああ、なかなか冷めそうにはないけれど。荒船さん。すきでした。
春駒さんのことは、やっぱり好きにはなれないけれど。どうか、荒船さんが、荒船さんの好きな人と、幸せで。


「あの、春駒さんっ」
「荒船!どした?」
「……えっと」
「あっ、さっきね、スナイパーの子に会ったよ。荒船が話してた子」
「み、見てたんですか」
「あんまり女の子泣かせちゃダメだよ」
「泣かせてるつもりないです!」
「…あの子に宣戦布告するべきだったかな」
「え?」



荒船と先輩と荒船を好きな子
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