Shira×Yuki . . . Type:A


湯上りの白石の首元に光るのは、俺が以前彼に贈ったものだ。俺は何かにつけてお揃いを好む方だが、白石は違う。白石から物を受け取った試しが無い。確かに欲しいと思ったものを買ってもらった覚えはあるが、白石が選んだ物は一つたりとてない。
だからこそ、自分が女々しいんじゃないかと思う時がある。
自分と同じ物を身につけてほしい。愛情か、見返りを求めるから恋情なのか。白石に集る虫を追い払いたいから、所有の証を付けさせるのか。多分、全部だ。

「どしたん?」

濡れる髪をタオルで無造作に掻く白石に、俺はふと笑ってみせる。

「別に。なんだか慣れなくて恥ずかしいだけ」

白石は上半身には何も着ず、服と言えばスウェットだけを身につけている。まだマシな方だ。俺が初めて白石の家に来たとき「健康のためや」だとか言って下着だけの姿を見せられた。驚愕だ。パジャマ派の俺には刺激が強すぎた。自分の顔がどれだけのものなのか、彼には今一度理解していただきたい。客人が来た時どんな対応と取るつもりなんだと叱りに叱って、現在どうにかスウェットを穿かせるまでに至る。
とはいうものの、引き締まった上半身をこれみよがしに――彼にはその自覚が無い――曝け出しているんだから、彼を見る視線が危なげなものに変化しそうで自分が怖い。それに加えてネックレスがまた色気を増している。それで視線を流されたら女に限らずノンケの男も一発で落ちるだろう。俺がいい例だ。

「ええ加減慣れてくれてもええんちゃう?」
「そんな格好する白石が悪い」
「そんなことあらへんと思うけど」

大して悪びれる様子もなく、ソファの上で足を抱く俺の隣に腰掛ける。近くに来ると洗い立てのシャンプーの香りと共に色気に当てられてくらりと眩暈に襲われる感覚がする。末期だ。
こうして二人でまどろむ時間は割と好きなのだが、それは不意にインターホンの音に破られた。出ようと腰を浮かせる白石の腕を慌てて掴み、ソファに戻す。その姿では風邪をひくから上に何か着てからにしなさい、とか生易しいことが言いたいわけではない。上半身を露出しているこの格好で出るなんてこの俺がさせるわけがない。代わりに出ると伝えると、白石はわかっていない様子で聞き返してくる。その無垢すぎる顔に向かってとびきりの笑顔を浮かべて対応する。

「白石は大人しく待ってて」

白石の顔が引きつったような気がするけど、そこは追及しない。わかってくれているんだから。パタパタとスリッパを鳴らして玄関先に出ると、俺よりも年上だろうか、奇麗な女性がにこりと笑顔を浮かべて立っていた。
白石、こんな女いるなんて聞いてないよ。あとで尋問する。と心で怒りを燃やすと、女性は不思議と首を傾げた。

「あら、蔵ノ介くんじゃない子。お友達?」
「どちら様ですか」

若干不機嫌さを滲ませる。女性の手元には中くらいの鍋。呼び方も俺が普段呼べない下の名前で、親しそうだ。しかも俺を見てお友達、か。女顔だとはよく言われるけれど、やっぱり恋人としてはみられないか。当然といえば当然だが、ちょっと勘に触る。白石がフリーだと思われているようで。
すぐ戻ってくると思ったんだろう。対応に悩んでいると、奥から白石が出てきた。ちゃんとパーカーを羽織っている。言った甲斐があった。女性の顔を見るや否や、俺に中に入っているように言われる。仕方なく踵を返すも、ちら、と視線を寄こせば女性と仲良さそうに話す白石の横顔が見えた。


ソファに戻って足を抱え込む。適当にテレビのチャンネルをいじくってもレの興味を引き付けるものなんて何一つ見当たらず、結局電源ボタンを押した。
しばらくして扉の開く音が聞こえた。振り向くと白石が頭を掻きながら戻ってきた。よかった、その手には何も持っていなかった。

「スマンな幸村クン。今の子お隣さんやねん」

返答がないことから俺の機嫌が悪いと感じた白石は苦笑する。慰めるようにソファ越しに俺の首に腕を回して抱きしめた。ネックレスがかち、と鳴る。白石の少し湿った髪が首筋に張り付く。冷たくて身震いした。

「一人暮らしやからって、夕飯のおかずとかようくれんねん」

そんなの媚び売りたいからに決まってる。白石がかっこいいから。女っていつもそうだ。気に入られたいからああやってかいがいしい女を演じてるんだ。家上がる?なんて聞かれたいからだ。白石に近づく女はどれもこれも下心アリアリで。ああイライラする。
あ、でも俺だって白石に物あげて一人占めしようとか思ってた。ていうことは俺も白石に集る女と同じってこと?

「やけど言うたから。大切な人がおるから勘違いされとうないって」

唇が耳に寄せられ、耳たぶに軽く触れる。それは愛しい人にするような優しいもの。

「で?」
「厳しいなぁ。機嫌直してな」

身を乗り出した白石に唇を奪われる。かち、とネックレスが鳴った。
確かに俺は白石に対して先の女のような下心だって持ってるし媚びだって売ってる。それでも白石を手に入れた。性別の壁を越えた。それがどれだけ大変なことだと、普通の人には理解できやしない。だからもう誰にだって渡すつもりもない。他の女になびくはずもないのに心配になって機嫌悪くして、まったく何なんだ俺は。

「白石は俺が好き?」
「おん」
「きかせて」
「好きや」

俺でいいの、だとかそんな気弱なことを口に出すつもりはない。ただ、こういうことがあると気持ちを確かめたくなる自分がいた。もっと、と呟けばキスの雨が降ってくる。こんなにも愛されているのに、嫉妬というものはいつの時代にだってあるものなんだ、と。

「俺が風呂から出てきたときに美味しいもの用意してくれたら許してあげる」
「無茶やな」
「大丈夫。ゆっくり浸かってくるから」

白石はできるって信じてるよ、と言いながら着替えを抱えて立ち上がる。白石はわがままなお姫様や、と言ってキッチンに向かった。

「そやって立海の皆にプレッシャー与えてきたんやろ。悪い人やな」
「さぁ?どうでしょう」

俺はつられて笑う白石を横目に、満足気に風呂場へと足を速めた。




Keep you to myself


( Keep you to myself )



20111113 ナヅキ
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