Mura×Himu


最初の目的は性欲処理だった。キレイな顔してて、それでいて面倒を見るのが大好きな世話焼きで、ベタベタに甘やかしてくれるなヤツなら誰でもよかった。
――――――――…室ちんはそんな条件にぴったりと当てはまる絶好の獲物だった。

性欲処理と言っても女の子は皆無理だった。何が無理ってオレを受け入れることが難しかった。いくら慣れているから、と意地を張っても最後には泣きながら「ごめんね」って謝られて別れた。寄ってくる女の子は皆してお菓子をくれる優しい子。でもやっぱ心のどっかでそーゆー対象として見てくるっていうか?なんていうの、同学年の男子よりもちょっと大きいからって、好奇心が背中を押すんだろうね。
でもオレだって男の子。ちゅーもしたいしえっちもしたいと思うくらいには男の子してるよ。
中学時代に付き合った子は何人かいたけど、皆そーゆー時になったら口を噤んでいやいやって首を振るの。無理させてるってわかってる。そんなのわかってる。だけど。オレはワガママだけど、同じ人間だから人の痛みくらいわかる。心の痛みがちょっとばかしわからないだけでね。申し訳なくなってオレから別れを切り出す。女の子は皆ちゃんとオレを好きだって言ってくれたんだけどね。
背が高いのも体がでかいのも苦労するよねーほんと。
いつだって慰めてくれるのは柔らかくて優しい女の子じゃなくて、筋肉質で厳しい赤ちんだった。同じ男だからわかる、だから共感してくれる。赤ちんは嫌とかダメとか文句ひとつ言わないでオレの愚痴を聞いてくれた。その時に赤ちんに「あまり急ぐな」「僕たちはまだ若い。じっくり考えてみてもいいんじゃないか」そう言われた。付き合った女の子のことはそれなりに好きだった。本気じゃないにしろちゃんとその子のことを見てた。即物的、野性的、なのかな。そこらへんよくわかんないけど、好きな子としたいって思うのは自然なことじゃないの?オレは今でも赤ちんに言われたことが上手く理解できていないみたいだ。頭を使うのは得意じゃないし。




『アツシ、抱いてくれ』

誘ってきたのは室ちんだった。お風呂上りで上気した顔で、うっとりした表情で、体に触れられた。そこで気付いたんだ。別に女の子にこだわらなくてもいいんじゃないかって。
ああ、自分がここまで見境がないヤツだなんて思わなかったけど、目の前の獲物は濡れた瞳で唇を寄せてくる。もともとネジが緩かったんだから、ここのネジも緩くていっか。そう決意した時には既に室ちんを押し倒した後だった。
室ちんの体は日頃の練習のおかげで筋肉がついていたけど、中学で言えば峰ちんとか、高校で言えば主将とかがっちりした感じじゃない。白い肌は体温が上がるとほのかに桃色にも見える。なんだか今まで会った男の子じゃない、若干女の子に似たものを感じた。

「あっ…ん、………んぅ……っ!」

室ちんはオレを受け入れてくれた初めての人だった。室ちんは自ら求めてくれて、苦しい、痛い、やだ、なんて弱音を一切言わなかった。全部が入った時、室ちんはいつもより下手な笑顔を浮かべて「ありがとう」って言ったんだ。お礼を言いたいのはこっちの方なのにね。
クソ生意気に映ったはずのオレの面倒をかってでてくれた。編入してきた時期が時期だからって、アツシと一緒の部屋でもいいよって言ってくれた。受け入れるモノを持ってる女の子が拒絶したものを、受け入れるモノを持ってない室ちんが受容してくれた。それだけでオレの心は室ちんの虜になっていた。

「室ちん、ねぇ、今日はどうしたの?いつもより、締まってるし」

この角度から見下ろす室ちんはいつもきれいだった。汗で頬に張り付いた黒髪が白肌に映えて扇情的だ。オレの首に回す腕は求められているようで、早くその先を与えてやりたいと思わせる。
こんな姿を見せた相手は他にいるんだろうか。いるに決まってる。こんなに魅力的な人を放っておくわけがない。きっとアメリカで初めては経験済みなんだ。ずるい人だ。オレの始めてを奪っておいて。ああ、アメリカって言えば火神もそうだっけ。
火神、火神、火神。室ちんは火神の話をするとき、いつもご機嫌だった。“弟分”だとよく言える。あれは嘯いてるだけだ。本当は兄と弟の関係じゃなくて恋人のそれだったんじゃないの?きっとアメリカで、オレの知らないアメリカ時代に愛し合った仲なんだろう。室ちんの味を覚えていく度に腫れあがる嫉妬はちくちくと胸を刺激する。室ちんは火神と離れてる、その繋ぎでえっちの相手を、できるだけあいつに近いオレにしたの?

「アツシこそ、…っぁ…だいぶ急いでないか…?…あっ…ん、」
「そんなの室ちんがえろいからに決まってんじゃん、よっ」
「ふぁっ!あっ、ゃ、あ、こら、やめっ」

いつからか、オレが囁いてる愛の言葉を聞いてほしくて室ちんの耳をいじり始めた。感度のいい室ちんは思った通り耳も弱かった。でも耳は悪いんだね。オレがこんなに愛してるのに、オレの想いは聞き入れてくれない。言葉にしない、音に乗せないだけで。いや……違う、言葉にしても。
びくん、揺れる体はいやらしくうねり、視界を侵されている感覚に陥る。ぐち、ぐちゅ、と接合部を鳴らせば室ちんは「あッ」と声をあげて浮き上がる。細腰を抱き締めて奥へ奥へと昂りを埋めていく。
ただの性欲処理だったこの行為はいつしか愛を感じる行為になって、室ちんへの普通の人には抱かない想いも覚えた。すき、すきだよ、あいしてる、あいらぶゆー。いくら言葉にしたって室ちんはいつもの優しくて曖昧な笑顔を浮かべてオレもだよ、ってぼやかすんだ。
せめてこの行為の時だけは、オレだけを見ていてくれると思っていたのに。オレのことだけを考えてくれてるんだって思ってたのに。
――――――…そうやって、瞼を下ろすんだね。

「出る、出すよ、……大好き、」

いつだって全力で愛してきた。初めて好きになったひと。果てる時は一緒に果てたいって思うのは当然のことなのに。ああ、いつだって室ちんは、オレを見てくれない。瞼の裏に焼きつけた、あいつとオレを比べてるの?オレはこんなにも室ちんのことがすきなのに、



  ねぇ、室ちん。あんたの目に映っているのは本当にオレなの。
  教えてよ、あんたが大好きなのは、オレだよね?



その答えが聞きたいから、オレは今日も耳を澄まして愛を探ろう
その答えを知りたいから、オレは今日も目を開いて見つめよう




誰を重ねてるの


( 誰を愛してるの )


心から氷室さんが好きなむっくんと曖昧にぼかす氷室さん。初めて受け入れてくれた泣きたいくらいの喜び気持ちと、恋慕を抱いて焦がれる気持ちと、氷室さんが火神君に気持ちがあると思い込む気持ちでごちゃごちゃなむっくん。自分ができるだけの方法で愛を伝えているのに、氷室さんは擦り抜けていく。勢いで書いたので見苦しい点あると思います……グフッ
20120924 ナヅキ
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