Mura×Himu


最初の目的は性欲処理だった。できるだけ身近にいて、それでいて信頼が置けて、男相手でも戸惑わない肝の据わったヤツなら誰でもよかった。
――――――――…アツシはそんな条件にぴったりと当てはまる絶好の獲物だった。


女性は面倒だった。体を重ねる、ただその行為だけに一生をかけるような重みがある。不幸なことに生まれ持ったこの顔に寄ってくる女性は両手じゃ数えられないくらいいた。一度でも関係を持てば誰もかれもが「わたしのなかにもうひとつのいのちがあるの」と魔法のような呪文を口に並べてオレを繋ぎとめようとする。さながらそれは蜘蛛の巣のようだ。それに絡めとられてしまえば最後、自由に生きることは叶わなくなる。男が結婚を決めるのはきっと、女性の張る蜘蛛の巣に雁字搦めにされた時だ。女性はどんな手段を使ってでも男を誘惑して、最終的には食らうんだ。
――――…ああ、どこかの誰かさんにそっくりだね。
確かに女性は男に無いものを持ってる。体つきは柔らかくその曲線美は溺れるほどに奇麗だ。あの包容力はオレでさえマネできない。男であるオレが母性など持ち合わせているはずもないから。
その点、男性は楽だ。幸いなことに生まれ持ったこの顔立ちは少しでもソッチに興味のある男にウケが良かった。垂れ目がちな瞳を細めて流し目を送って落ちない男は未だ会ったことは無い。女役をかっても別段子を宿すこともない。強いて言えばローションでどろどろにする過程が必須ということだけだ。
アメリカでも何度か関係を持ったりしていたけれど、日本に戻る時に関係を断ってきた。最後の男は名残惜しそうに何度も何度もキスを繰り返してきたけど、記憶にある女性よりもしつこくはなかった。
いくら性格がよくったって、いくら顔がよくったって、人当たりがよくったって。人には避けられぬ三大欲求というものがある。誘われればその気になってしまうのはサガだ。だからと言ってオレは女性は片っぱしから断っていた。オレの眼中には男しか映ってはいないのだから。
抱くよりも抱かれる方に悦を感じるようになったのはいつからだろうか。柔らかい腰を掴んで動かすよりも、逞しい腕に抱かれて貫かれるほうがよほど気持ちがいい。





「あっ…ん、………んぅ……っ!」

アツシは今まで関係を持った男の中でダントツで体の相性が良かった。見たこともないモンスターを飼っていたことは知っていたけど、実際受け入れてみると想像を遥かに超える大きさだった。こちらが壊されてしまうくらいに。
それに日本では珍しく同性間の性交渉でも偏見を持たない、どこか緩い思考の持ち主だった。アツシもアツシで性欲の捌け口を探していたようだから利害が一致した。だから日本に来てからというもの、オレの性交渉の相手はもっぱらアツシだけに絞られていた。
規格外の体躯に抱き締められれば溶けるほど熱い吐息が漏れて、体の芯を燃やす体温に触れれば弾けるくらいの刺激が体を走る。こんな感覚になったのは初めてだ。まるで本当の恋人同士にでもなった錯覚を起こされる。仰け反って晒す白い喉元に肉厚な舌が這われる。首筋からじわりと滲む汗はきっとしょっぱいだけなのに。それさえも快楽に変えて震えるオレも相当なモノなのだろう。
いつからこんな感情を覚えたのかは定かじゃない。部活も一緒、普段の生活も一緒、性生活も一緒。そんな生活を続けていたらこうなるのは自然なことなのかな。ああ、そういえばオレはタイガにも似たような感情を抱いていた気もしなくない。どちらかと言えば嫉妬の方が勝っていたのかもしれないけど。

「室ちん、ねぇ、今日はどうしたの?いつもより、締まってるし」

頭上から降りかかる揶揄の声は腰を押し進める度にオレを攻め立てる。「久しぶりだからだよ」と誤魔化してはおいたが、それはいつもの強がりにすぎない。弟分の前でみっともない姿は見せられないなんて子供っぽい強がりだ。それも弟分に攻められて善がる時点で意味を成していない気もするが。せめていつの時もお兄ちゃんでいさせてよ。そのためなら本心を少し隠していてもいいだろう?

「アツシこそ、…っぁ…だいぶ急いでないか…?…あっ…ん、」
「そんなの室ちんがえろいからに決まってんじゃん、よっ」
「ふぁっ!あっ、ゃ、あ、こら、やめっ」

腰を掴んで打ちつけながら、オレの耳を食む。舌がぬるりと耳を撫でていく。耳が敏感になったのはこうしてアツシが行為中に舐める癖が原因だった。
あれほど純粋だと思っていた弟分はいざするとなると随分と手慣れていたことに驚きを隠せなかった。兄貴質なオレは一から教えてあげようと意気込んでいたはずなのに、アツシに押し倒されればその意気込みは無意味になった。逆にオレがこうして開発されてしまった。
だからこそ一つ、心にわだかまりがあった。
あんなにも無垢なアツシがこの行為を知っていた理由は、彼にあるのではないかと。中学時代アツシを手懐けていた絶対的君主と謳われる赤司君。アツシが唯一言うことを聞き入れる、彼にしかできないことだから。中学を卒業して、もう赤司君とも会わなくなって、行った先でオレを見つけた。面倒を見てくれる点では同じ。顔は似ていないとは思うけれどね。赤司君の代わりとしては上出来ではないだろうか?オレの存在は。
そんな疑問が塊になって心の端っこに住み着いた。オレがアツシに惹かれる度にそれは比例して少しずつ膨れていく。アツシの口からオレが好きだって聞いたとしてもそれはその場凌ぎにしか聞こえてこなくなるくらい、つくづくオレは嫉妬深いどうしようもない男だ。

「出る、出すよ、……だいすき、」

汗ばんだ逞しい腕がオレを抱き抱えて、最奥に猛りを穿つ。跳ねる体を押さえつけられて声にならない悲鳴を上げながら達する。奥に注がれる一夜だけの愛に、何度涙を流せばいいのだろうか。今日もオレの視界はかすんで歪み、本来の姿を映してはくれない。頬を流れた熱い滴はくしゃくしゃのシーツに吸い込まれて滲んで消えた。



  なぁ、アツシ。お前の目に映っているのは本当にオレなんだろうか。
  教えてくれよ、お前がだいすきなのは、ほんとうにおれなのか?



その答えが聞きたくないから、オレは今日も耳を塞いで愛に溺れよう
その答えを知りたくないから、オレは今日も目を瞑って滴を流すんだ




誰を重ねているの


( 誰を愛しているの )


何も信じられない氷室さんと純粋に氷室さんが好きなむっくん。お兄ちゃんでいたい気持ちと、恋慕を抱いて焦がれる気持ちと、むっくんがまだ赤司君のところに気持ちがあると思い込む気持ちが交差してぐちゃぐちゃになってる氷室さん。不幸体質なのでネガティブ思考に陥る時にはどっぷり落ちると思うんですよね…。勢いで書いたので見苦しい点あると思います……グフッ
20120924 ナヅキ
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