Kura×Ken

フェティシズム(英語:Fetishism)は、人類学・宗教学では呪物崇拝、経済学では物神崇拝と訳される。また、心理学では性的倒錯の一つのあり方で、物品や生き物、人体の一部などに性的に引き寄せられ、性的魅惑を感じるものを言う。極端な場合は、性的倒錯や変態性欲の範疇に入る。

(wikipediaより一部抜粋)

このウェブの百科事典に乗っている単語を照らし合わせると、俺は唇フェチらしい。しかも特定の人物にのみその効果を発揮する特殊なタイプの。しかもその相手は、同じクラスで同じ部活の、俺よりちょっと背が高くて、笑うと女みたいにめっちゃ可愛え、悲しいことに戸籍上生物学上共に“男”の、白石蔵ノ介や。
ぱっちり二重の、長い睫毛にキメの細かい肌に、ぷるっぷるの唇や。男でも惚れてまうやろってくらい仕草がきゅんとくる。なるほど女子が集るのもよくわかる。前に無意識に白石の頬をつついたことがある。ぷにっぷにのふにふにや。なんなんほんま。自分何がしたいんや。KIRIN(=K彼氏IいないR歴IイコールN年齢)の俺を小春とユウジの道へ走らすつもりか。ア?←落ちつけ。

「謙也?どしたん?」

あんな、白石。俺思うねん。なんでオサムちゃんが白石を部長にしたか。絶対あのエロオヤジ白石めっちゃ可愛えから近くに置いときたいんやろ。気づいてないとでも思ったか!残念やったな、バレバレやぞ。
今は昼時。がやがやと人ごみ絶えない食堂の中で白石と俺、ついでに財前とふらついてた千歳つかまえて4人でテーブルを囲んでいる。女子からの視線が気になるが、財前はいつもの調子で携帯をいじっている。隣の千歳はのんきに欠伸をかましている。マイペースな奴らはええな、何も考えんで!俺はここからが修羅場やねん!
向かい側の白石に小首を傾げられ、危うく心を掴まれかけたがそこは理性が取り戻してくれた。

「な、何でもあらへんて。飯食うで!」

白石の今日の飯はサンドイッチや。成長期真っ盛りの運動部所属の男子がそんだけで足りるわけがないと毎度言うてるんやけど、当の本人は食が細いらしく「これで十分なんや」と俺達の半分くらいの量しか食わん。足りないやろ普通。
くいだおれ丼にかぶりつく俺は、野菜たっぷりのサンドイッチを頬張る白石の唇に知らず知らずの内に視線を寄こしていた。
サンドイッチからこぼれたドレッシングを指先にすくって舌で舐めとる。桜色の唇からのぞく舌が何とも言えない。唇に残ったドレッシングの油が少し、やらしかったりなんかして。流し目でまた新しいサンドイッチに手を伸ばし、同じように頬張る。俺は毎度、その唇に物が運ばれる時に手を止めてしまう癖がついてしまっていたらしい。隣の財前に脇腹を小突かれた。

「謙也さん手ぇ止まってますよ」
「ん、なんや可愛え女の子でもいたん?」

「さっきから俺の後ろの方気にしとるやん」と企み顔でイタズラに笑う白石は、ほんまなんで男に生まれたんやって思わせる。俺が気にしとるんは目の前の自分やけどな!なんて言えるはずもなく。

「お、おらへん!」

やけになってくいだおれ丼を食べまくるしかなかった。そんな俺の気持ちを知っている――というか「バレバレっすわ」とか言われた――財前は肩を揺らして突っ伏している。そんな財前の足を踏もうと思ったが、後の仕返しが怖いのと弱みを握られているから容易にはできひんかった。だから頭の中で踏んでおくことにした。
そんな時や。食堂の入口の方からダダダダッと走ってくる足音が近づいてきたのは。

「しらいしー!」

金ちゃんを受け止めた白石は、残りのサンドイッチを全て金ちゃんに食われてしもた。しめた、という顔を浮かべた金ちゃんは咄嗟に千歳の後ろに隠れた。口からはレタスが顔を出している。

「白石のサンドイッチ、ワイがもろたで!」
「こら金ちゃん、人のモンに手ぇだしたらあかん言うたやろ」

咎めても金ちゃんは悪びれる様子もなく、せっせと口を動かしている。白石の食いかけサンドイッチ…うぐぐぐぐ。

「白石の弁当めっちゃうまいねん!せやからワイめっちゃ好きや」

幸せそうに笑う金ちゃんを見て、白石は怒らずに笑いかけた。金ちゃんは部活でもムードメーカー的存在。年下で活発で愛嬌もある。まるで園児を相手にしているように白石は金ちゃんと接していた。

「まぁ、俺特製やからな。まずいわけあらへんやろ」
「せや!めっちゃうまかったで!」

ぽん、とサンドイッチが吸い込まれたお腹を叩く金ちゃんは千歳の膝の上。千歳はすでにデザートに手をつけているらしく、千歳の前にはいろんな種類のケーキが並んでいた。金ちゃんはそれにも手を付ける気があるらしい。
頬杖をついてフォークを手に取る金ちゃんに笑みを浮かべる白石は、困ったように眉をハの字にした。

「そんで、俺のご飯食われてしもたわけやけど」

視線が俺の方へけられて、上目遣いに目と目が合う。

「謙也のん、欲しいなぁ」

美人のそれはやけに威力がある。そのせいで箸でとったはずのご飯を落としてしまった。白石の「ひとくち」と言って口を開けて待っている姿はいささか男子中学生にとっては刺激が強い。ちら、と携帯から視線を寄こした財前も、携帯を落としそうになっていた。俺は慌ててくいだおれ丼を白石の口に運んでやる。普段こんなに量の多い学食は口にしない白石は「うまいわ」とはにかんだ。
真正面から白石の、その、待ってる顔見てしもた勢いと、こないに広い場で堂々と間接キスしてもうた羞恥が襲いかかってきて箸を落としてしまった。カチャンと音を立てて落ちた箸に意識は向いておらず、代わりに唇についたご飯粒を指で舐めとる白石に向けられていた。
不意に目が合うと、白石は目を細めて唇に弧を描いた。まさか最初からこのつもりで――――…

「ごちそうさん」

ああ、謀られた。俺が白石にしか反応せんからって、知っとったんや。白石本人が。じゃなきゃこんなに悪戯っ子みたいな笑顔せん。

「また、食わしてな?」

きっと俺は白石の唇見たさにまた同じことをしてしまうんやな。
財前に足を蹴られて、しょうもないくらい白石の手のひらで踊らされとる自分から覚めると、無意識に「せやな」と言ってしまう自分がおった。




Fetishism


( Fetishism )


白石さん限定の唇フェチが最終的には白石さんフェチになってしまう謙也さんのお話。白石さん一人勝ちなので計画通りなんです。小悪魔聖書おいしいですもぐもぐ。誕生日まで白石さんに振り回される謙也さんすてき。おめでとう。

20120317 ナヅキ
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