Chito×Kura


「蔵」

狼の手が伸びて俺の頬を包み込む。俺のなんかより大きくて温かくてがっしりした手が喉元をくすぐるように動く。くすぐったさから逃げるように動くと被っていた赤いずきんが肩に落ちた。色素の薄い猫っ毛の髪が狼の目に晒される。狼は楽しげに「むぞか」と呟いて無防備な俺の唇を奪った。

「そげな顔しとっと、食べとうなってしまうばい」

黒い瞳に映るのはいつもとは違う俺の顔。兄の顔でもなく、男の顔でもない。じゃあどんな顔をしているというのか、なんて愚問だ。自分が一番よく知っている。今、俺は、期待している。この狼にされることを。

「どうやって、食べるの?」

俺の問いかけに狼は唇を緩めて再度俺の唇を味わった。口の中を侵す自分とは別の熱に心拍数が急激に上がるのを感じて、頬を包む狼の手を握った。

「聞くちこつは食べられとう、ちこつやけんね?」

俺の瞳を覗き込む黒い瞳の奥には獣が潜んでいるのだろうか。優しい狼の別の顔を見てみたいと言う欲求を押さえることができなくて、大部分を占める期待と一掴みの恐怖心を持って、静かに頷いた。




「……ん、あ、ぁ」
「声抑えなくてよか。俺しか聞いとらんばいね」

壁に手をついて尻を突き出す情けない格好で、俺は狼の手によって喘がされていた。それもそのはず。狼が与える刺激に背を反らすとどうしてもそうなってしまうのだ。それを恥じる俺を見て背後で狼がくつくつ笑うのが悔しくて余計恥ずかしい。
後孔をゆっくりと開発していく狼の指は躊躇もなしにどんどん奥に侵入していく。潤滑油の代わりにワインで後孔を濡らしているせいなのか、狼に触れられているせいなのか。意識はふわふわと浮ついていて不安定だ。

「足ふらついとるばい。もう立ってられんと?」

ね、と耳朶を食まれて抜けるような声が出る。狼の慣れた手つきに翻弄されてされるがままの状態で息を声と共に吐くことしかできなかった。ワインで滑るごつごつした指で後孔を開発していく。時折立つ水の音が自分の体から鳴っていると考えると羞恥心が増した。ぐっと奥に押し込まれると圧迫感からくぐもった声をあげる。狼は楽しそうに俺の反応を見ては胎内をいじった。

「あ、あん、や、あぁっ」
「ん、見つけたばい」
「あ、あ、んんっ、やぁ、は、あ、」

びくん、と体が弓なりに反る。え、なに、この感じ。狼は執拗に俺が大げさすぎる反応を示した箇所を指の腹で擦る。その律動に合わせて俺は体を揺らした。

「ややぁ、あぅ、あっ、や、んっ!」
「嫌やなかと。蔵の体は素直やけん、離してくれなか」
「ちゃう、やや、ふぁっ―――…、っぁ、あんっ!」

体の芯が火照ってきて首筋を汗が伝ったと思うと、赤いずきんを剥がされて襟のボタンを片手で易々と外される。肩まで服を剥がされると今度は後孔に挿し込まれた指が増えた。第二間接まで埋めてぐるりと指を回し、俺は呆気なく果てた。壁についた白濁に羞恥心が煽られる。そんな俺を追い詰めるかのように、狼はワインに濡れた指を舐めた。熱の挑発的な眼差しに射られ、胸がどくんと高鳴る。これだけじゃ終わらない。心の奥底でそれを期待しているんだ。内側から湧く甘い疼きが止むことはなく、俺は自分から狼を求めるように狼の行為に息を飲んでいた。

「ん、は、……うあぁっ…!」

腰に狼の腕が回され、うなじを噛まれる。その痛みが襲った直後に後孔を突き抜ける昂りに背を仰け反らせた。痛みを感じたことのないその場所はいくら慣らされたとはいえ狼のものを受け止めるには不十分だった。瞳から溢れた涙は暴力的に視界を歪ませる。壁に爪を立てて痛みを堪えるも、それでもその痛みは強烈すぎた。狼は首元で熱い息を吐き、俺の様子を見ながら腰を押し付ける。

「…う、ぁ……痛い…っ」

狼のものが奥へと侵入すると痛みは増し、俺の意識はもうろうとするばかりだった。足もおぼつかずに狼に支えられている状態で壁を抉っている。振り返って狼の瞳と合うと、狼は熱情の中に寂しさのようなものが滲み出ていた気がした。溢れた涙が頬を伝うと狼の瞳は伏せられた。そして胎内を擦る狼から与えられる痛みが体を貫いて、目の前が真っ暗になった。





あまりにも呆気ないくらいに意識を失った俺は、気が付いたらおばあちゃんのベッドに横たわっていた。部屋には狼の姿は見当たらず、見渡してもあの巨体の影一つ視界に入ってはこなかった。あの痛みが夢なわけないだろう。それは腰に突き刺す痛みが教えてくれた。顔をしかめてベッドから這い上がると、キッチンに人影があるのを見つけた。

「あら、クーちゃん起きとったの?」

衣擦れの音で察したか、キッチンからおばあちゃんが笑顔でこちらを覗いていた。鼻をくすぐる甘い香りはバスケットの中のあのケーキだろうか。おばあちゃんがお盆に乗せて持ってきたのはやはりあのケーキだった。よほど空腹だったのだろうか、ここからケーキの匂いに気づいたのか。

「疲れちゃったんね。ぐっすり眠っとったんよ?」

ふふふ、と優しく微笑むおばあちゃんは俺のよく知るおばあちゃんだった。おばあちゃんは揺り椅子に腰かけ、ゆったりとくつろぎながらワインをたしなめている。俺はフォークを片手にケーキをつつくと、おばあちゃんが「おかしいわね」と眉をひそめた。

「留守の時動物でも入ったんやろか…、壁引っかかれてもうてるわね」

おばあちゃんの視線の先には、先ほど狼に食べられそうになった時に俺が抉った壁が。おばあちゃんは「鍵かけた気ぃしたんやけどねぇ」と呟いた。俺は咄嗟に「野生動物がうろうろしとるからやないの」と誤魔化した。
おばあちゃんは上手く誤魔化せたものの、俺の中では狼の件が忘れられずに引っかかっている。狼の食事はあれで終わりだったのだろうか?あの寂しいとでも言うように伏せられた瞳に意味はあるのか?それが気になって仕方がなかった。狼のことを考えると。またお腹の奥が疼いた。―――狼に食べられていた時のあの甘い、甘い疼き。このケーキのように甘いのだろうか。
あの痛みには慣れないだろうけど、このまま狼のことを忘れて過ごすなんて俺には出来なかった。甘い甘いケーキを頬張って咥内に広がる甘さに酔いながら、俺は狼の瞳の奥を思い返した。




Red Riding Hood


( Red Riding Hood )


自分解釈版赤ずきん。あまりにも痛くなったんで(白石さんの身体的に)早めに切り上げました。これ10月に思いついたんだよ。書くの遅いよ自分。

20120219 ナヅキ
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