..かたおもい

03..優等生と天才処女

手作りの夕飯をご馳走になって、一緒にテレビ見たりして、なんとなく恋人の気分を感じてしまう。
部長のジャージを寝巻代わりに借りて、今は部長の部屋にいる。あれから天気はさらに悪くなり、雨音は先ほどよりも激しく地面を打ち鳴らす。床に布団を敷く部長を見ながら窓に目をやっていると、部長はそれに気づいて言った。


「財前、ベッド使うてええで」
「え?」
「女の子を床で寝させるわけにいかへんやろ」


今は女の子やし、と布団の皺を伸ばしながら言う部長に断るわけにもいかず、おずおずと頷いた。やっぱり部長は謙也さんなんかよりもずっと女の子のことを知っている。ささいなことも気配りが上手で、上げればきりがないくらい、部長はかっこいい。
突如、窓の外がぱっと光って部屋が一瞬明るく照らされた。そのすぐ後から地を鳴らすような轟音が耳を貫いた。


「ひっ…!」


それだけでも十分驚いたのに、それに加えて部屋を照らしていた電気がふっと消えた。一面が真っ暗になって、慌てふためいてしまう。中学生にもなって暗闇が怖いなんて部長に知られたない。やって、めっちゃ恥ずいやん。心の中では大丈夫だと粋がってはいるも、停電がすぐに回復するわけがない。雷は光と音の関係から考えて相当近くに落ちたのだろう。窓の外から見える周りの家は全て電気が消えていた。
と足を出したら、足元の布団につまづいてバランスを崩した。確か、前には、部長がおったような。まぁそんなわけで、おれは思い切り部長に体当たりをかましてしまった。部長の肩に頭をぶつけて少し痛かったけど、部長はそんなおれを抱きとめてくれた。


「大丈夫か?」
「は……はい、あの……ひっ!」


ありがとうございますと言いかけて、再び雷に邪魔される。地鳴りする音に思わず自分から部長に抱きついてしまう。さすが部一の努力家や。部長の体に触ったことが無くて、きっとがっしりしとるんやろな、俺と違って、と思っていたけど実際はそんなでもない。見た目は細いし、手なんて女の子見たいに白くて長い。けれど男らしさも秘めていて、ほどよくついた筋肉はより部長をかっこよく見せて。部長に抱きついてしまったけど、思っていた以上に部長は抱き心地がよかった。千歳先輩がよく抱きついとるのを見て部活中に何しとるんやと思っていたけれど、今はそれに共感できた。


「……財前、雷怖いんか?」
「……え…ぁ、…」


震える手で部長の服を思い切り掴んでいたおれはそれに気づいて離そうとするも、続く雷によって余計握り締めてしまった。頭上で部長がくすりと笑うのが聞こえた。恥ずかしくてしょうがなくて顔を上げられへん。
部長はおれの心境を知ってか知らずか、おれの頭を撫でてくれた。背中に腕を回されて優しく抱き締められる。遠征の帰りの電車の中で騒いでいた金ちゃんを寝かしつけたあの時みたいに。


「かわいいやっちゃ」


柔らかく笑って背中をさすってあやしてくれる。いつ雷が鳴るのかわからない恐怖と、部長に触れられている緊張とでおれの心臓は破裂寸前だ。部長に伝えようとしても発する音が言葉になってくれなくて嗚咽に変わる。部長は呆れたように眉を下げて、おれの体ごと布団に横になった。


「もう寝よか。…な?これなら怖ないやろ」


体と体がぐっと密着するくらいに近づいて心拍数が跳ね上がる。それでも恐怖は拭えずに、轟音が鳴り響いて、おれは再度部長の胸に顔を埋めた。




目が覚めると柔らかい日差しが差し込んでいた。度合いから考えると、きっと早朝だ。昨日の雷は嘘のよう。眠い目を擦ってふと手元を見ると、昨日の一連のせいで部長の服をしかと握り締めたままだった。


「…ぁ………ぶちょ…」
「おはようさん。…目、覚めたんか?」


視線を上げると、すごく近くに部長がいて。こんな至近距離で部長を見ることがなかったおれの心拍数は一気に上昇した。やって、部長、めっちゃきれいで、かわいくて、迫力が合って、それで、それで、なんとなく、やらしいんやもん。
寝起きの部長はいつもよりとろんとした瞳で、ちょっと肌蹴た首筋とかもうたまらん。やって、こんな部長、見たことなくて。ああ、きっと今、部長の瞳には真っ赤な顔して、どうすればいいかわからなくてあたふたしとるおれが映っとるんやろか。


「…お…おはよう、ございます…」
「ん」


昨日は大丈夫やったか、と髪を撫でられて胸が高鳴る。…千歳先輩が羨ましい。きっとこんな部長を何度も何度も何度も、見てるんだろう。ずるい、ずるいずるいずるい。


「財前?」


おれは部長の背中に腕を回して、ぎゅっと抱きしめた。なんとも間抜けな声が聞こえた。いつもと違う部長が見れて嬉しくなった。完璧じゃない部長。


「……がっこ、遅れていきたい、です」


ぐり、と部長の胸元に押し付ける。と、頭上で「ほんまに…」と困ったような声音がして、背に腕を回された。


「…ギリギリまでな?遅刻はあかんで」
「………はい」


やっぱり部長は遅刻を許してくれへんかったけど、ほんのちょっとでも部長の隣におりたかったからええとします。部長のええ香りを胸いっぱいに吸い込んで、瞼を下ろした。


20111208 ナヅキ
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