..ナルシズム

01..アバズレ娘と優等生

朝、目が覚めたら「俺」がいた。目の前に、横になって眠っている。それだけでも驚くのに、眠る「俺」は女だった。なぜそうだとわかるのか、なんて、姿を見れば一目瞭然だ。同じ布団に入っている「俺」は昨晩まで俺が着ていたTシャツを身につけている(俺は上半身裸)。「俺」にとっていささか大きいTシャツからは白い肩が見えている。乱れた髪は長く、見る限りでは肩と腰の中間くらいか。けれど、耳近くではねるくせ毛や、色素の薄い髪、顔立ち(女らしいが)から鏡に映った俺の様だと判断できる。俺と瓜二つな「俺」がいる。なのになぜか、あまり動揺はしなかった。
それは昨日の出来事が原因だろう。“自分がもし女やったら”どうしてそんな話になったのかよくわからないが、確かこれは謙也が言いだしたことだ。こんな話をして目を覚ましたら隣に女の「俺」がいましたなんて、夢もいいところだ。まったく。結局謙也は聞くだけで自分のことは何も触れなかった。
というか、本当にこの「俺」は俺なんだろうか。自分の寝顔を見たことはないが、我ながら奇麗な顔をしていると思う。規則正しい寝息を聞きながら、そっと「俺」の髪に触れる。髪の質感や感触は俺のものと同じか、少し柔らかい。すると、長い睫毛が瞬かれた。鳶色の大きな瞳がゆっくりと俺を捉えた。


「ん…、なに……?」


鈴の音ようなソプラノの声が細い喉から漏れる。若干掠れているのに息を飲んだ。「俺」は俺を瞳に映して、ゆったりとした動作で体を起こした。反射的に俺は「俺」から距離を取ろうと後ずさる。けれど布団が一枚しかないので奪うわけにもいかず(俺が着ているせいできっと「俺」は下半身裸だろうし)布団を「俺」に寄こしたまま、壁に頭をぶつけた。謙也みたいや。鈍痛が走り、思わず頭を押さえる。襟から肩を出した「俺」は俺の顔をまじまじと見つめ、恍惚に微笑んだ。


「やっぱウチってかっこええんやな」


とろん、とした瞳(多分、俺がいつも千歳に向けるような視線か)で見詰められ、動揺する。としてもこの状況、どうなっとるんや。この疑問を解決してくれる存在が目の前に居るのに、言葉がついてこない。「俺」が言っているように俺も、「俺」が奇麗だと思っているからだ。こんなに奇麗な女の子は今まで見たことが無い。多分、見たとしてもブラウン管の向こうだ。しかも「俺」が俺の分身(?)だとすると、俺も世間的に相当かっこええ部類なんとちゃうの。千歳だって俺のこと可愛え言うし、「俺」が俺の分身だったら「俺」が可愛くないわけがない。自己完結していると、「俺」が俺の瞳を覗き込む。


「自分、…俺なんか?」
「せや。うちはウチ。ウチは、うち」


要するに「俺」は俺自身であって俺ではない別の個体(本質的には俺)だということ。そして、「俺」が生まれたのは昨日の話が原因らしい。加えてこの「俺」は俺以上に、性欲が強いらしく、今「俺」の小さくて柔らかい手が俺の下半身に添えられている。男には避けられへん生理現象というものがあってやな、ごにょごにょごにょ。意に反して起ち上がる自身に遠慮もくそも無しに、やらしい顔してる俺自身に触られてるってどんな状況や。なんでこんなこと平然とやってのけるのか、それは俺の予測通りなら昨日の話が関わっている。好き勝手に言いよった千歳や謙也を恨んだ。


「あは、何恥ずかしがっとんねん。うちに対して恥ずかしがる必要ないやろ」


自分自身なんやから、と笑って見せる「俺」は俺の制止の声も聞かず、ジャージと下着をずらして直に扱く。千歳やない人に触られるんは初めてで(それが自分自身だとしても視覚的に“自分”やない)、声を漏らしてしまう。慌てて口元を押さえて「俺」を見やるも、「俺」はいやらしい笑みを浮かべて鈴を鳴らした。


「…やらしい顔、さすがウチや。ええとこ全部知っとるから、我慢せんでええよ」


うちが抜いちゃる、と言って「俺」は小さな手を上下に動かす。緩い刺激が伝い、体に熱が籠る。自分自身だから俺の好きなところも、好きな動かし方も全部熟知しているらしく、小悪魔的な笑顔を湛えて愛撫を続ける。


「ま…待ち、やめ、ぁ、」
「ん、もうちょいやな。気持ちええ、気持ちええ。な?」


先端を強く刺激され、俺は「俺」の手の平に射精した。細い指に絡むそれを満足気に見詰め、「俺」は鈴を鳴らした。


「はい、ご苦労さん。でも意外やな。ウチ、早漏やないと思っててんけど」
「…俺は自分がこないに変態やと思わんかったで」
「いつも千歳にぶち込まれてあんあん鳴いとるウチに言われたないわ」


くすくすと笑う「俺」に、俺は射精後の脱力感に襲われた状態で溜息を吐きながら悔しげに「俺」を見上げた。「俺」は楽しむように俺を見下げて、涙目になる俺の唇を奪った。


「そないな目で見られたら興奮するやろ」


やっぱりウチは可愛え、と「俺」は俺の唇を割って舌を侵入させて咥内をいじくった後、唾液に濡れた唇に舌を這わせた。溜息をついてしまうくらい、うっとりとした顔で。俺はこないな変態やない。絶対信じへんし認めへん。「俺」は俺やけど俺やない!
こんなん、キスにカウントせえへんからな。くそ。


20111117 ナヅキ
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