..してやったり

02..アバズレ娘とスピードスター

「うちに勝とうなんざ百年早いねん」


しくじった。勝ち誇った笑みを浮かべる「俺」をキッと睨むが、そんなの屁でもないと鼻を鳴らすだけだ。
未だジャージのままの俺の手首を包帯で縛りつけ、口も言葉がきけないように包帯で巻かれている。身動きの取れない状態の俺を見下ろす「俺」は、姉が昔着ていた制服をちゃっかり着こなしている。勝手にクローゼットから拝借してきたのか。


「昼には戻ってくるさかい、ええ子で待っててな。ウチ」


にやり、と企み顔で笑う「俺」は荷物も何も持たずに、「一人じゃカワイソやから千歳呼んどくな」と携帯をちらつかせて俺の部屋から出ていった。





昨日の夜の、うちの言い分はこう。「うちもウチと同じように白石蔵ノ介なんやから学校行く権利がある」。だから行ってもええやろってウチに言うたら「だめ」の一点張りや。


『白石蔵ノ介は男や。せやから女が来たらおかしいやろ!』


白石蔵ノ介は一人で十分や、って言うウチがちょっと癇に障って(うちはわがままやから、思い通りにいかへんと嫌やもん)何が何でも行ってやる、と計画した。翌日の朝、ウチが寝とる間に愛用の包帯で口と手の自由を奪って、姉ちゃんが寝とる時に部屋に入って制服引きずり出してようやく準備が整ったのに、いざ部屋に戻って着替え終わると目覚ましたウチが騒ぎ始めて。力の差はあるにしても今のウチは何もできへんさかい、やからうちはこのまま学校へ行けるんや。飯食わせなあかんから、早う帰らへんとならんけど。今日の授業のノートどうしよ、そんなことを考えながら、ウチを残して部屋を出た。

ウチはうちのことを家族に知られたないようやから、気づかれんように家を出た。通学路を朝の肌寒い風を全身で浴びながら学校へと向かう。多分、朝錬に来るんが一番早いのは謙也やから、きっと部室でストレッチでもしとるやろ。
着くと、朝の学校は閑散としていていつもの活気はどこへやら。人が少ないというよりおらへんから堂々と歩いて部室へと向かう。扉を開けると予想通り謙也のラケバだけが残されてあった。ロッカールームとは別の、シャワー室と隣り合っている休憩スペースの扉を開けると、ビンゴ。謙也がおった。目が合うと、謙也は思いっきし見開いてうちを見た。


「しらいし…!?え、何、女?誰!?」


混乱した様子でうちの体を上から下まで視線を動かすと、衝撃を受けたらしくよく漫画で見れるその背後に集中線が見えた。


「自分、…女やったんか!」


こんなんだから光も苦労すんねんな。がく、と膝を折る謙也を見て、うちは少し面白くなった。


「男のウチはお家や。別にええやろ?女のうちだって白石蔵ノ介っちゅー話や」
「は?自分も白石?」
「こないだ話とったんやろ?ウチが女やったらー…って。ほら、よう見て」


謙也の前で腰を下ろし、顎をくい、と持ち上げる。謙也の瞳を覗き込んでふ、と笑うと、一気に紅潮した。わかりやすいやっちゃ。謙也の目の前に手をかざして視線を集めたら、それを唇に持っていってゆっくりと下へ下げる。体のラインを確かめるように首筋から胸元へと指を滑らせていく。女性らしい体の凹凸を見せつけるようにして、指についていく謙也の視線を恍惚として見詰めた。


「ケンヤがずっと考えてた、うちのからだ…エクスタシーやろ?」


ごくり、と息を飲む謙也に、胸元の襟を肌蹴させるとさらに顔を紅潮させた。ほんまに表情コロコロ変えておもろい奴や。もう少し遊んでやろうと思っていたところで、謙也の手が伸びてきて、うちの肌蹴た襟を慌てて整えた。ぽかんと口を開けてまうと、謙也は真っ赤な顔で怒鳴った。


「な、な、何さらしとんのや自分!アホちゃうんか!」
「何言うんや。真っ赤な顔しとるのに」
「アホ!自分な、女ならこないなことするもんやない!ほんま…」


意外に謙也はエロ本読むくせにこういうんに弱いらしい。そういえば初めてうちの姉を見た時もなんや真っ赤な顔しとったっけ。面食いなんやな、きっと。
壁にかかっている時計を見ると、そろそろ皆が集まってくる時間だった。遊びはこれくらいにしよう、と謙也の言葉を遮って立ち上がり、スカートの皺を手で伸ばした。


「はいはい。今日はこのへんで勘弁したるけど、次は期待しとるで」


終いに片目を瞑って見せると、謙也が肩をわなわなと震わせて「出てけ!」と叫んだ。どうせ謙也は女の子に誘われても手も出せへん男やってわかっとったけど。ヘタレやし。頭を抱える謙也をそのままに、うちは部屋から出てロッカールームに向かった。そこでばったり光に会うたけど、光にはまだ手を出さん。そう決めたから、目を丸くする光に軽く手を振って、部室を後にした。


20111121 ナヅキ
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