Shira×yuki . . . Type:A


街を彩る木々の葉が色づいた頃、冷たい風を正面から浴びた幸村は小さく身震いをした。
もうこんな季節なのか、とタートルネックの襟を持ち上げ、ふと空を見上げる。

(――――…寒くなってきたな)

澄んだ空は乾燥しているからか、とてもきれいに見えた。病室から見る景色とはやはり違う。手を伸ばせば届く様な錯覚さえ起こさせる。それはもう5、6年前の話になるが。
狭く無機質な病室にいたあの頃を思い出し、忘れるように頭を揺らした。

(もう病気は治ったんだ。心配することなんてない)

幸村は自身にそう言い聞かせて白石の住むマンションへと足を進めた。



合鍵を使い、部屋に入ると慣れ親しんだ白石の匂いが体を包んだ。実はこの瞬間がお気に入りだったりする。大好きな白石に抱きしめられているようで、自然と口元が緩む。

「ただいま」

少し声を出してリビングにいるであろう白石に声をかけると、案の定「おかえり」と声が帰ってきた。足早に廊下を進んで部屋へと行くと白石の姿を見つけて安堵する。
髪が湿り、首にタオルをかけている姿を見れば風呂上りなんだろう。温まったせいで頬は色づいていた。

「今日は遅かったなぁ」
「部活でね」

「寒かったんか?鼻赤いで」と鼻をつんとつつかれる。はにかみながら「さすがに夜は冷えるよ」と返せば風呂に入ってこいと返された。幸村は荷物をリビングに置き、白石がわざわざ作ってくれたクローゼットの中の幸村のスペースから着替えを持って風呂場へと向かった。


しばらくして幸村が風呂から上がり、白石を探すとキッチンにいた。うーん、と考え込むその様子からどうやら明日のお弁当を考案しているようだ。
幸村は寝室に向かうと、荷物の中からリップバームと鏡を取り出して椅子に腰かけて鏡を立てた。
お弁当の具が決まったか、白石は温かいココアの入った二人分のマグカップを両手で持って幸村のいる寝室へと向かってきた。そしてその仕草に思わず目を見張った。

幸村はデリケートであり、乾燥肌でもあった。放っておけば白く細い指先は見るにもいたたまれなくなってしまうのだ。だから寒い時期になると決まって保湿クリームが必要となる。
今日も例年と同じように感想を防ごうと愛用のリップバームを唇に塗っていたというわけだ。
白石は鏡を見ながらリップバームを塗る幸村の横顔を見つめて思う。女性よりも美しいのではないかと。それはあながち間違ってはいない。幸村は奇麗だ。睫毛は長く、瞳は大きい。寒さのせいか頬はほんのりと染まり、形のよい唇はふっくらとしている。それでいて顔を作っていないのだから尚更だ。
基本に忠実に基礎を固めているだけ、と言う幸村に恋をしたのに後悔はなかった。
今思えば出会ったのは中学二年の頃、全国大会の時だ。あの頃から――いや、きっともっと前から幸村は奇麗だった。
白石だってまさか同性を好きになるとは思ってもみなかったのだ。ただ、ただ幸村は美しすぎた。
それから月日は流れ、今に至る。幸村は相も変わらず愛らしい笑顔を浮かべてくれる。あれから変わったのはその相手が白石と限定されたことくらいか。

「明日は早いの?」

と、幸村は見惚れていたら白石に鏡に視線を向けたまま問いかける。白石はマグカップを幸村の近くの小さなテーブルに置き、ベッドに腰掛ける。一口ココアを飲み、自らのマグカップもテーブルに置いてから答える。

「明日は1限あらへんから朝はゆっくりや」

久々にのんびりできるわ、と白石は両腕を天井に向けて大きく伸びをした。ふぁ、と欠伸をしたのを見て幸村は柔らかく微笑む。

「そうか、じゃあ夜更かししても大丈夫だよね」

白石の眠気で細くなった瞳に映ったのは、幸村の唇。首に腕を回され、唇が重なる。甘ったるいバニラの香りとココアの味が口内に広がった。リップバームをつけたキスは、いつもとは少し違うように思えた。白石はそのまま幸村にされるまま、ベッドに押し倒される。深く角度を変えて続くキス。幸村が離すと意味深な笑みを浮かべ、唾液に濡れた唇を動かす。

「ねぇ、白石。こんな乾燥している日は………潤いが必要だとは思わない?」

その挑発的な問いかけに、白石はその意味を察する。馬乗りに跨る幸村の胸元に手を伸ばし、幸村を見上げる。その視線は普段幸村を見詰めるよりも意地悪い。

「お強請りの上手な子は、嫌いやないで」

胸元のシャツを握り締め、引き寄せて口付ける。甘ったるいバニラの香り。白石は匂いにこだわりがあるため少々口煩かった。だが状況によってはその匂いに酔いしれ、誘いに乗ってみるのも悪くない、と思うのだ。
柔らかくしっとりとした唇を合わせ、温かく滑らかな肢体に手を這わせ、快楽を共有するその行為は、きっと匂いにやられたのだろう。麻薬のような、バニラの香りに。




Lip chap


( Lip chap )



20111007 ナヅキ
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