Chito×Kura . . .


「あ」

窓の外は生憎の雨。しとしとと音も無しに降る雨は窓に当たって伝い落ちた。ホームルームが終わって帰り出すクラスメイトがぞろぞろと教室から去っていく。そんな中傘立てに視線をやる白石はらしくない間抜けな声を出した。

「どしたん白石」
「また傘無くなってもうた」
「またって、最近頻繁やな」
「おん」

ここのところよく持ってかれんねん、という白石はそんなもの慣れっこだというようにラケバを担いで教室を出ようとする。俺はその肩を掴んで引きとめた。

「先生に言うたら?オサムちゃんとか」
「あほ。オサムちゃんなんか頼りにならんやろ」

あー、雨酷うなってきたなぁ、とのんきに窓を見やる。
実は前にも白石の私物が盗まれることがあった。傘に限らずシャーペンや消しゴムなどの文房具も消えた。大方犯人の目星はついているが範囲が多すぎて特定は難しいだろう。
これは白石のファンがやったとしか思えない。ファンといっても一概に女とも断定できない。男でも、2年の頃の女装喫茶でメイドに扮した白石の色気にやられて目覚めた輩がごろごろといるのだから。熱狂的な奴が白石の身の回りのものをとっていってしまうのだ。
最初の頃はイタズラかと思っていたが、こう何度も続くとなるとさすがに心配になってくる。移動教室やらで教室を離れるときによく狙われるのだろう。かといって全ての荷物を持って移動するにはいささか目立ちすぎる。なのに、俺がこんなに心配しているのをよそに白石はけろっとした態度だ。

「あんなぁ白石、そろそろ覚悟したほうがええで」
「なんで?」
「自分が狙われるかもしれへんねんで?」

悪いけど、今日は用あるから送れへんけど、と言うと白石はええよ、と同じ調子で言う。傘貸してやれたらええんやけど、二本も持っとらん。
堪忍な、と手を顔の前にやって白石に踵を返した。最後に風邪引かんようにな、と注意して。



―――…謙也が階段を駆け降りるのを見送って、振り返る。教室側の壁にでかい図体を寄りかからせている千歳の手元にある傘に視線を落とし、笑みを浮かべる千歳の顔に視線を上げた。

「盗んだの自分ちゃうん?」
「ひどかね。これは正真正銘俺んやけん」
「せやった。俺のはこんなでかないもんな」

何度もしたやりとりを交わして、謙也の駆け降りた階段を共に下りる。
こうして一緒に帰るようになったのは最初に俺の傘が盗まれてからだ。あの時も今日のような雨で、千歳とはちょうど一緒に帰る約束をしていた。千歳が親御さんから送られてきた荷物が多すぎて片付けられないというから手伝う、ということで。男二人で相合傘して帰った時は恥ずかしくてしにそうだった。そしたら千歳が変なこと言いだして。

『また傘無くなったら家来てくれるとね?』

こうして、相合傘して。多分それはない、これっきりだと思っていた俺は、

『ええで』

と答えてしまった。が、今となってはこうして一緒に帰るのが楽しみになってしまっている自分がいる。現に心配してくれている謙也の扱いがおざなりになっていたから。
靴を履き替えて外に出ると、突き刺さるような外気に体を強張らせた。隣にいた千歳に寄り添うと、千歳は「寒かね」と笑った。そして二人で大きな傘を差して、ぬかるんだ地面に足を落とした。

「今日も泥棒さんに感謝ばい」
「あほなこと言うなや」
「やってこげな時やなか、白石ば家来てくれんけん」
「なんやそれ」

言葉では強がっているものの、内側は期待で破裂しそうだ。雨の日は泥棒が仕事してくれる、だから千歳の家に行ける、気持ちええことしてくれる。やから雨の日は無条件で朝から気分が浮ついて、授業の内容なんて頭に入らんくて。優等生ってこんなこと言うんやないよな。なんで皆俺のこと優等生って言うんやろ。中身は全然ちゃうのに。

「別に、雨やなくてもええけど」
「…何?聞こえんかったばい」
「うっさい黙れ調子乗んな」

にこにこした顔で聞き返される。わかってて言っているのがやらしいんや千歳は。胸を手で叩いて「あほ」と呟き、その手を引いて帰路を急いだ。



学生寮に着いても一向に止む気配はなく、雨は音を立ててより激しく地面を打ち付ける。しとしとと降る雨よりは音のする雨の方が好きや。やって隣の人に声、聞かれんで済むから。
部屋に入るとすぐに千歳の唇を塞ぐ。慣れたもので、16pの身長差はあるものの難なく口付けはできるまでに至る。荷物を玄関先に置いたまま、千歳の誘導で万年床に押し倒される。天井を背景に俺を見下ろす千歳の瞳は既に雄の色を漂わせていた。

「優等生はまずシャワー浴びるとこから始めるんじゃなかと?」
「優等生は相手の要望にはよ応えよとしとるから大人しく押し倒されとるんやろ」

舌舐めずりをして返してやると、千歳は「蔵には勝てん」と苦笑した。かくいう俺も千歳に優位に立てるのはこの辺くらいまでで、この後は好き勝手にされるんや。それが目的やからわざと千歳を煽ることをするんだが。

「シャワー、浴びた方がええ?」

悪戯に唇に笑みを浮かべて見やれば、千歳は俺の頬に口付けて耳元で囁いた。

「…その必要はなかね」

その言葉を合図に俺に纏わる衣服は剥がされ、体中に口付けられた。甘い乾きを千歳が潤してくれる。窓を打ち付ける雨の音は、千歳の愛を囁く声にかき消された。喉を通る吐息は熱を含んだ喘ぎを含み、空気を揺らして千歳を奮いあがらせる。内壁を激しく擦られる感覚に恍惚を覚えて度重なるピストンに反応してしまう。
壁の薄い学生寮の中で、学生にあるまじき行為を行うスリルはたまらなく面白い。本当は星の奇麗な夜に愛を囁き合いたいものだが、学生という立場がそれを阻む。だからこうして、雨の日に、理由を付けて逢瀬して交りあうんや。

「あっ、は、あぅ、んぁあっ、あっ」
「くら、くら、むぞかね」
「あん、ええよぉ…そこええっ…!あっ」
「くら…っ、好いとうよ、好いとう」
「ふあぁっ、あ、ああっ、…あ、んっ!」

激しく腰を打ち付けて、千歳が俺の内壁を潤す。熱い体液が注がれるのを短い悲鳴をあげて感じ取る。千歳は俺の頬に手を添えて、愛しい笑顔で「愛しとう」と告げた。



今日も生憎の雨模様。そして今日もまた、私物が盗まれた。でもそんなの慣れっこや。

「うわー、せっかく晴れたと思たら雨かい」

「せっかく部活休みなんに」と残念がる謙也を尻目に俺は口の端を吊り上げる。

「え、白石の傘また無いやん」
「そっか」
「ちょ、少しは気にしろや」
「まぁええやん。細かいことは気にせんで」

また明日なと謙也を見送り、後ろを振り返るといつものように千歳が壁に寄り掛かって、俺の好きな表情浮かべて傘をちらつかせるんや。

「家、くると?」
「野暮やな」

また今日も、土砂降りの雨の中愛を交わそうと、俺は千歳の傘に入り込んだ。




Thief


( Thief )


泥棒に感謝の二人。中学生でエロいことしてたら問題ですよね。だからばれないようにするためにはノイズが必要だよね。 白石さん誕生日おめでとうございました!遅い!

20120415 ナヅキ
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