Chito×Kura . . . Type:A


「あのね、私、ずっと前から白石君のこと……」
「あたし、白石のこと……」
「初めて見たときから……」

ここ一カ月、女子からの告白が止まない。これがよく聞くモテ期というやつなんだろうか。白石は女子に呼び出されることが多くなり、最近は部活に来るのが遅い。中学の頃もそれなりに――といったら謙也に物凄い妬かれた――告白はされたものの、こんなにも頻繁ではなかった。姉と妹に挟まれ、女のあしらい方に長けていた白石はその度に女子を宥めるのだが、どうしても泣かれてしまうのを悩みの種にしていた。
告白されるのに悪い気はしない。けれど付き合う気はない。だからと言ってそっけなくするわけにもいかず、女子の気持ちを汲み取った上でやんわりと断るのでその優しさに当てられて泣かれてしまうのだ。
実際、今日告白してきた女子にも泣かれてしまった。白石は泣かせるつもりはないので微妙な心持で部活に向かうのだ。謙也はまたか、と言って口を尖らす。それを見て財前が謙也をからかう。今ではこれが日常茶飯事だ。

「ええよな白石は。女にようモテて!嫌がらせか!」
「謙也さん見苦しいわ」
「なんやて!財前だってモテるんやろ!あっち行けや!」
「謙也さんよりはモテますけど、そんなそっけなくせんといてください」
「何お前さらっと認めてんねん!腹立つ!」

ムキになった謙也は財前に絡み、取っ組みあいになる。それを止めるのが千歳の仕事だ。
参った、という表情を浮かべる白石は、何か考え事をしているようで眉間に皺を寄せている。今にも溜息を吐きそうだ。憂いを帯びた様子も白石の魅力を引き立てるのに変わりないのだが。
千歳が謙也と財前の喧嘩を止めると、外にオサムの姿を発見した小春とユウジに急かされて部室から出ていった。頃合いを見計らい、着替え途中の白石に問いかける。

「白石はどげん思っとるんね?」
「どうって、何を」
「付き合うちこつ」

「よう告白されるんなら理想くらいなかと?」と、壁にもたれかかかると、白石は不機嫌そうな顔のままでジャージを羽織る。

「千歳は、カレシってどんなんやと思う?」

ジャージに袖を通しながら視線を向ける。呆れた色が瞳の奥でちらついた。よくわからないと答えると、白石は目を伏せてジャージの襟を整えた。

「カレシって、アクセサリーみたいなもんとちゃうの」
「アクセサリー?」
「おん。やから嫌や」

白石は基本どんな女性でもからも好かれるが割と派手な部類の女子に人気が高い。生まれ持った美形を買われているのだろうが。もちろん持ち前の優しさや思いやりで大人しめの女子にも好意を受けているが、圧倒的に前者からの告白を受けることが多い。以前白石は街で偶然同じ学部の女とすれ違った。その隣には確か男がいたはずだ。その女に翌日、告白された。いつものように断ると、女はわかったとだけ言って去ったが、その後も違う男を連れている姿を白石はよく見かけた。その顔には満足しているような表情は見なかったが。
要するに、その女にとってカレシとは自分をより可愛く引き立たせてくれる装飾品でしかないのだ。白石は美形だ。白石自身は普通だと言い張るが、それは不適切な表現にすぎない。白石の隣に女子――カノジョがいれば、目を引くものがあるだろう。だからこそ、女子は白石を利用して、自分に装飾して女としてのランクを上げようとしているのではないだろうか。
上記のような女に実際に告白を受けて以来、白石は女子と接することを若干避けているように見えた。自分を利用されるのは、誰だって面白くない。

「俺は互いの心が通じ合うっていうか、愛し合う、っていうか、そういう関係がええねん。付き合うなら真面目に。遊びなんていらん」

いつにない白石の刺々しい口調に、千歳は白石の苦労をひしひしと感じていた。中学3年から今まで共にいるが、白石が女子に嫌われている噂など一つたりとも聞いたことがないのだ。それもそれで不思議だが世渡りがうまいのだろう。

「アクセサリー、上等やね」
「なんや?いきなり」

白石は怪訝な顔をこちらに向けた。冷たい視線からどういう意味だ、という疑問の色が露わになる。

「俺は別にアクセサリーでも何でもよか」

無造作に部誌が開かれた机に指を滑らせて、白石の肩を押す。華奢な体は易々とロッカーに背を預ける。奇麗に整った顔のすぐ横に手をつくと、白石は動揺しながら俺を見上げた。

「……は?」

ぽかん、と口を開ける白石の身長と同じになるように腰を軽く屈めて、吸いこまれそうな鳶色の瞳を見詰める。こんなに純粋で奇麗な人間の装飾品になれるのなら別にいいのではないかと思わせるほど、白石は魅力的だ。女が湧くのも理解できる。

「まぁ、考え方は人それぞれやんな」

白石は視線を逸らして俺の手を振り払おうとする。けれどそれは次に発した俺の言葉によって静止した。

「特に白石みたいな奇麗か人のアクセサリーならね」

見開かれた瞳を覗き込むと、白石は一瞬息を飲んだ。それからぺちん、と俺の頬に手を押し当てて引き剥がした。近い、という声は妙に上擦っている。距離をとるように早足で扉に手をかけると、少し赤らんだ顔で言う。

「千歳、あんま変なこと言うたらあかんで。ほんま」
「なして?」
「なしてって…自分何言ってるかわかっとるん?女子に言うたら勘違いされるで」

自分、自分が知っとるより顔ええんやから、と白石ははにかむ。俺らしくないとこ見せてしもたなぁ、忘れてや。申し訳なさそうに言う白石は、きっと男相手にこんな様子を見せてしまったのを言っているのだが、かえって俺には逆効果だった。

「ばってん、俺は白石に言っとるんよ」
「……?」
「白石にならアクセサリーになってもよかち。俺、白石好いとうから」

白石はドアノブに手をかけたまま、もう一度近づく俺を押しのけることはなかった。

――――…ほんなこつ、アクセサリーになれればよかね。

温もりを離した後に見た熱に揺れる瞳に、俺は静かに目を細めた。




Accessories


( Accessories )


ポッキーの日なのに思い浮かばなかったので以前書き途中だったものを投下。この白石くんは女の子を好きになれなかった白石くんです。
20111111 ナヅキ
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