Shira×Yuki . . . Type:A


時計を見る。時刻は19:20。白石は今日部活で少し遅くなると言った。ご飯は食べてくると。
意を決し、ボトルの中の紫色の液体をコップに流し込み、睨めっこする。見れば見るほどにヒトが飲める色をしていない。けれど大丈夫だ。実験が成功すれば、何も問題はない。俺は一気に液体を飲み干した。


事の発端は大学の図書館で柳にばったり会ったことから始まった。白石が遅いからといって柳の用事に付き合うと家に案内され、そこには乾の姿もあった。そこで柳の用事とは乾汁の新作を研究することだと気付いた。それから既存のものに改良を加えた乾汁の試飲をしてくれと頼まれた。最初は嫌だとは言ったものの、その効果を聞いて愕然とした。
その効用とは、恋人との距離を縮めてくれる、言わば一種の媚薬のようなものらしい。以前柳に悩み事を聞いてもらったことがある。白石のことだ。
白石は無欲だ。何も欲しがらない癖して俺の欲しいものは全部与えてくれる。だからお返しがしたいんだがどうすればいいの、という内容から脱線し、最後にはどうしたら白石に欲情してもらえるか、ということになったのだ。

『だっていつも俺からなんだよ?俺から仕掛けないと触ってもくれない!』
『そうか、では乾と相談して策を練ってみよう』

ああ、そうだ。あの時は少しお酒も入っていたような。よく思い出せないが、何かすごい性事情を口走っていたのかもしれない。幸いにも相手が柳だからよかった。…だからと言って乾汁が媚薬になってしまうとは一欠けらも予想していなかった俺には衝撃的だった。

「これを相手に飲ませればたちまち獣のように盛るだろう」

これで白石から襲ってもらえるようになる、のか。と渡された瓶を見る。毒々しい紫色の液体が波打つ。本当に飲めるの、と聞いてみたくはなるものの、二人は信頼できる人柄だ。もともとは俺の相談に乗ってもらい、わざわざ作ってもらったものだ。ありがたく受け取っておこう。

「精市、それには一つ注意をしてほしい」
「注意?」
「まだ誰も試飲をしていないのだ。生憎俺達には使う相手がいないからな」

試飲、か。と液体に視線を落とす。

「大丈夫だ。仮に失敗したとしてもそんなに酷い効果が出るとは思わんからな」

乾は自身ありげに眼鏡を光らす。二人に礼をいい、俺はその瓶を手に白石の家に持ち帰った。そして、飲み下した今に至る。


苦い、ような味が口内を満たす。思わず眉をひそめる。と、何やら背筋を走る悪寒に体を震わせた。膝をついて、自分の体を抱きしめる。

(…成功してくれ)

きっとそのうち、体の奥底から燃え滾り、どうしようもない疼きが俺を支配する。それまで待って。これが完成品ならばどんな手段を使ってでも白石に飲ませて俺の思い通りになるのだから。
瞬間、くらりと強い眩暈に襲われる。これはやばい、と思った時にはもう遅く、俺は揺らいだ体を床に体を預けた。



「――――…クン、」

「幸村クン!」

肩を揺すられて目を開けると、眉を下げて心底心配している白石と目が合った。

「何があったんや、家に帰ってみたら幸村クン倒れとるし…」

大丈夫か、と俺の頬に触れる。背や肩、腕にも同じように。そして白石の表情が変わった。白石の口からは信じられない言葉が出てきた。

「…幸村クン、……女の子になっとるんちゃう?」
「え?」

唐突に聞かれたものだから何て答えればいいのかわからない。しかしよく見てみれば、手は女のように白く柔らかい。もともと細い腰に手を這わせてみると滑らかなくびれが出来ていた。その感触は温かく柔らかい。男のように堅く筋肉質なものではなかった。

「幸村クン男やったよな?何があったん?急に女の子になるなんて信じられんで」

白石は俺以上に混乱しているようで、俺の体にどう接していいのかわからないように手を泳がせている。こんなに戸惑う白石は今までで見たことが無い。
そういえば白石は女の子と付き合ったことが無いんだった。だからだろうか。
というより柳と乾が言うには媚薬の効果があるんじゃなかったか?なんというかそのような気分にはなってないのだが。

「あのね、白石」
「ん、何や」
「女の俺って、どう思う?」

もうなってしまったものはしょうがない。そう思って思いきって聞いてみた。普段男である俺には一切手を出してこないから、悩み事が解消されると思って。見上げると白石は顔を真っ赤にしてあからさまに視線を逸らした。白石がそんなになるなんてめずらしい。俺は全身が映る鏡の前に立ち、とりあえず今の自分を確認することにした。
藍色のウェーブのかかったセンター分けの髪は相変わらず短いままだ。決して男らしくはなかった顔立ちは女になるとさらに女らしく見える。狭い肩幅のせいで衣服はずるりと下がってしまう。胸は、気持ち程度。

(手のひらサイズ…)

少し残念。でも多分白石は大きすぎないのが好きだと思う。勘。ジーンズを脱いでみると、肌と同じように白く細いおみ足が姿を現した。全体的に見れば少し頼りなさ気だ。女の子が俺によく言う“儚い”というのにも賛同出来た。多分男性はこのような女性を守りたいと思うのだろう。なんとなくわかる気がした。
すると不意に後ろから抱きしめられる。大きな腕に体がすっぽりと収まる。首筋に当たる柔らかさに口付けられたと感じた。鏡に映る白石の切なげな表情に、俺はくすりと笑って尋ねた。どんな言葉が返ってくるかなんて予想がつくけれど。

「…欲情した?」
「……阿呆。自分、どうなっても知らんで」

首筋に熱い舌が這い、チリリとした痛みが走る。今はその痛みさえ愛しい。普段手を出さない白石から求めてくれるなんて、ああ、まさにこれが媚薬ってやつなのか。互いに向きあい、深い口付けを交わらせ、背に腕を回される。

「……はっ…しらいし、」
「…何?」
「…ベッド、が………いいな…っ…」

熱さに潤んだ瞳を向ければ、白石は一瞬だけ目を見開いて愛おしそうに微笑んだ。体を易々と抱えられ、柔らかいダブルベッドのマットレスに優しく、優しく寝かされる。
再び口付けられ、徐々に舌を絡める深いものへと変わってゆく。

「………あ、…」

白石の大きな手が俺の服を器用に脱がしていく。壊れ物を扱うようにそっと触れられたくすぐったさに吐息を漏らす。
白石の手に収まるには足りない胸に指が伸ばされ、包み込んだ。ん、と見を揺らす俺に白石は笑って言った。

「こういうところ、幸村クンらしいと思うねんけど」
「…どういう、ところ……?」
「控え目やけど、感じやすいとこかな」

突起を爪で弾かれ、高い声を上げてしまう。これは媚薬の効果なのか、はたまた女の体だから敏感になっているのか。そんな雑念は溶けゆく理性に掻き消された。
白石のテクニックは相当なものだ。それでいて女を抱いたことが無いなんて嘘のように思える。それだけ才能があったのだ。そして、その白石の最初の相手が俺。男でも、女でも。白石の赤く熱を帯びた舌が腹を舐めるのを見て、ちょっとした優越感に浸る。白石がこんなことをするのは、俺だけ。

「何や、幸村クン。随分余裕あるな」
「ふふ…ないよ、余裕なんて。嬉しかっただけ」
「嬉しい?」
「…ん…そう、………女の時でも、しらいしと…ぁ、っ…一つになれるって…思ったらさ」

腕を伸ばして白石を引き寄せ、口付けを交わす。

「…もう、限界でしょ……?……ちょうだい…しらいしの…っ」

男の体の事情を知る俺には白石の状態だってよくわかる。今だって、ズボンの下から主張しているはずだ。熱い眼差しを向けて懇願すると、白石は応えるように口付けを返した。白石は俺のこの表情が好きだ。照れて言葉にはしてくれない。だからいつも口付けてくる。かっこよさの中に、こんな可愛い一面を持っているのを知るのは、俺だけ。
白石は俺の下着を脱がしてズボンのチャックを下ろし、濡れているそこに自らの雄を宛がった。そして一気に貫いた。

「……ああああ…っ!」
「……キツ…っ……」

挿入の際、感じる場所を思い切り擦られて身を弓なりに反らす。たまらない快感が体を駆け抜ける。白石のペースは落ちることなく、むしろさらに奥へと侵入してくる。

「幸村クン…、…ええねんけど…ほんま……キツイ…」
「…しらいしがっ…あっ、ん……大きいんじゃないか…っ…うぁっ」

ただ抜き差しを繰り返すだけなのに、白石は的確に俺の感じる場所を突いてくる。なんかもう白石という男はどんな面でも完璧すぎる。セックスまで上手なんてそんな話があるなんて最初こそ信じられなかったけど、実際に体を繋げてみると十二分に理解できた。

「…幸村クン」
「……ん、っ?」

腰を進められながら、口付けられる。突然のことに油断してしまった。それに同調するかのように白石への締めつけが緩んだらしく、白石は自身をぎりぎりまで引き抜いて一気に突いた。

「あああああぁっ!」
「…全部、入ったで……」

荒い息遣いが繰り返される。角度を変えて感じる場所を擦られる感覚に意識をもっていかれそうになるが、いつもとは違うセックスの最中でそうそう手放すなんてもったいない。俺の体は負けじと白石を締めつける。俺の腰を掴んで腰を打ち付ける白石の表情は、切羽詰まっているようだった。

「し、らいしっ……もう…っ…」
「ん、…俺も……」

「一緒に」と唇の熱が伝える。ハイペースになった抜き差しに今度こそ頭の中が真っ白になる。一番敏感な一点をしつこく刺激され、悲鳴のような甲高い声が喉の奥から出る。体の中で白石が質量を増すのを感じた。
いつも白石は中で出してくれない。体に負担がかかるから、と言っていつも外に吐き出す。だが今日は違う。女の姿なんてこの薬が切れれば即終了だ。だから、今日くらい白石の愛をちゃんと受け止めたい。イったら俺の体から逃げ出しそうな白石の腕を掴んで懇願する。

「幸村クン…!?」
「…いいっ……そのまま…中で……っ!」

敏感な場所を擦られ、俺は体を痙攣させる。収縮により俺は白石を強く締め付け、白石は吐き出すことを余儀なくされた。はち切れんばかりに膨張した白石は俺の中に欲望を吐いた。
熱の根源は抜かれたものの、胎内に残るこの熱さがやけに愛おしい。女の子の体は、男の愛を受け止められることを知っている。男の体は、同性の愛など受け止められないのだ。俺はそっと熱の残る下腹部に手をやり、息を吐くと同時にふわりと微笑んだ。



「幸村クン、体大丈夫か?無理してへん?」

情事後の朝はいつもこうだ。白石は俺の体を気遣ってくれる。今回だって変わらない。
目覚めると柔らかだった体は嘘のように硬い男のものに戻っていた。どうやら薬の効果は切れたらしい。少し気だるさは残るものの、そんなに辛くはなかった。女の子の体はよくできているな、なんて思いながら白石に微笑みかける。

「大丈夫。それより、昨日は珍しかったね。白石からなんて」

一番気になっていたことを尋ねると、白石ははにかんで言った。

「そのまんまの幸村クンも十分魅力的なんやけどな、グッとくるものがあってん」
「やっぱり女の方がいい?」
「そやなくて、俺は幸村クンがええねん」
「?」

どういうこと?と首を傾げてみせると、白石は照れて視線を逸らしてしまう。

「幸村クンに…あんな顔されたら、止まんなくなるっちゅーことや」
「あんな顔って、」

言葉を途切ると、不思議そうに俺を見て。

「こんな顔?」

目が合った時、少し困ったような、物欲しそうな表情を浮かべると、白石はカーッと頬を紅潮させてその場にしゃがみこんだ。

「…ホンマ堪忍してや」
「抜いてあげよっか」
「……遠慮しときます」

耳まで真っ赤になった白石を見て思う。白石のこんな表情を見られるのは俺だけ。俺だけが見ることを許された、俺だけの特権。
結局改良乾汁は必要なかったみたいだ。そう、白石の大好きな表情を浮かべさえすれば、白石も手を出してくれると学んだから。俺は机の上に乗っている瓶に視線を寄こし、それを引き出しに仕舞う。もう使うことはないだろう。このことで俺の悩みは解決したのだから。最後に俺は満足気な表情で、その引き出しを閉めた。




Fleeting


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やらかしました、BL初裏。所々目に余るものがあるとは思いますが許してやってください。
20111007 ナヅキ
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