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 研案塔のナースさん達が揃ってよく言う「ツクモちゃんお人形みたい」という言葉に、僕は常々心の内で「そうだよねえ」と深く頷いている。人形みたいだ云々という表現は女性が口にするからこそ良い印象を相手に与えるのだと何となく理解しているだけに自分がそんな台詞を吐いた事はないが、ツクモちゃんの容姿は確かにアンティークドールのように、否、それよりも更に愛らしいと思う。人形のように気取った雰囲気も済ました感じもない。キイっちゃんも標準より可愛い顔をしているとは客観的に思うけれど、僕のストライクゾーンど真ん中をハートの矢で撃ち抜くのはツクモちゃんの可憐な顔だったり。顔だけじゃなく細い指もすらりとした美脚もいいなあと思ってる。媚びても甘えてもいない、けれどちゃんと温かさを孕んだ声も良し。つまるところ好みだ。
 そんな僕の天使たるツクモちゃんは先刻からファー生地と睨めっこを続けている。色とりどりの布地が所狭しと置かれた手芸品店の空気は不思議とツクモちゃんによく似合っていて、こんな子が店員だったら裁縫を趣味にしてもいいなと思った。

 「やっぱり、こっちの色にしようかな…。本物に近いと全体の色が暗くなってしまう気がするの」
 「うん、僕もその色いいと思うよ」
 「本当?」

 というかツクモちゃんが選んだものは何故だか良く見えてしまうだけ。それなのに安心したように長い睫毛を伏せられたら、ああちょっと无君羨ましいかも。

 最初に「苔の色って何色って言うの?」とツクモちゃんからメールが来た時は、美少女と苔の組み合わせに首を傾げた。まさか栽培したいとかではないよなと懸念しつつ質問の意図を訊いてみれば、无君にコケトカゲのぬいぐるみを手作りして贈りたいんだとか。手作りって何それ僕が欲しい。それ故により苔の部分に近い色を予め予習してから材料を買いに行きたかったらしいのだが、苔も全ての種類が同じ色をしている訳じゃあない。ぬいぐるみがそれらしく見えれば良いだろうに少し細かく言い過ぎかと思いつつそれを伝えた。伝えたら、だ。彼女の中でどんな思考が繰り広げられたかは知り得ないが、結果的に「もし良ければ一緒に生地を選びに行って欲しい」とのお誘いメールが来た。勿論すぐさま保護をかけた。よくやった僕、植物栽培が趣味で良かった。

 そうして選んだ生地を、ツクモちゃんは店員に頼んでかなり広い幅で裁断して貰っていた。現物の何倍サイズのコケトカゲを作るつもりなんだろう。僕もヴィントでコケトカゲが大好きな振りをしていれば良かった、なんて。

 「ありがとう、喰君。植物とかの事で頼れるのってやっぱり喰君だし…今日は助かったわ」

 会計を済ませたツクモちゃんが振り向いて笑う。照れくさそうに気恥ずかしそうに嬉しそうにはにかむその顔を見て、貳組に行く用事が月に一度はあればいいのにと割と本気で思った。





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