「悪趣味だわ」 「そうですか?」 「そうよ、しかも物凄く」 あくまであたしの美意識が訴えている一意見でしか無いのだから、尋ね返される事は予想出来ていた。そして思った通り骸ちゃんは首を傾げた。 薔薇を象った万年筆。手帳や鞄のポケットに挟めるよう造られた金属の部分は花弁に模され、本体は先端の間近に至るまで細く優美な流線を描いて蔦が巻き付き、棘の一つ一つもしっかり作られている。まずまずの細工物ではあるし相応の値段もするのだろう、だけれど珍しく趣味が悪いわ、骸ちゃん。 何時の間に悪食になったのかしら。 「君は薔薇が苦手だったんですか、今初めて知りましたよ」 「別に苦手じゃない、わ」 つい一昨日足首に着けていたアンクレットのモチーフが薔薇の蕾であった事を思い出して舌を打ちそうになる。あたしも大分迂闊かもしれなかったけど其れは今現在この時だから言える台詞、あのアンクレットを選んだ事は微塵も後悔していない。七センチのヒールにはよく似合っていたし、勿論あたしにも似合っていた。 でも幾らあたしの髪色に合っていたってネイルとの組み合わせが良くたって、自分にとって厭わしい花を着けたりはしない。物の美しさはあくまで二の次、あたしを引き立ててくれなきゃアクアマリンも青いビーズも大差無い。 「骸ちゃんはもう充分じゃない」 「充ちるには程遠いですよ、僕は意外と我が儘で欲張りですからね」 本当、欲張りね。態々美味しくも無い薔薇味のガムを噛まなくたってあなたは何時でも前を向いていられるのだもの。 前を向いて、ぞっとする程お美しい横顔に獲物を踏みつける征服者の一笑を添えて、 (眉を寄せるあたしにどうしたのかと問い掛けはしても、香水を変えたあたしには何も訊かない。ええそうね、あなたはそういうひとよねわかってるわ、勿論。) 何時まで経ってもあなたの左手を見下ろす癖が直らないあたしには一体何の可能性なら遺されているのかしら。 もう口の中は何の味も、しないのよ。 |