弁護士四男と事務員の姉


「姉さん、そのポエム男にお茶はいいから、姉さんは姉さんの仕事をしてください」
「せっかく一松先生を頼って来てくださったのに、そんな言い方はあんまりじゃありませんか」
「今はそんな話をしてるんじゃ…」
「せんせ?」
「チッ……はぁ。失礼しました、お話はあちらでお伺いします。あー、余計な詩は書かなくて結構。…詩なんてどうでもいい?それはなにより」

「…先生、本当にいらないんですか?」
「姉さん、何度も言うようだけど、お茶くらいおれも入れられます」
「でも、それは事務員の仕事では」
「姉さんは、おれのサポートに専念して下さい。案件の資料を」
「た、確かに、最近おいしく淹れられるようになって浮かれてたかもしれないけれど、デスクワークを疎かにしていたつもりはないわ」
「もちろん、もちろんです。……あークソ、どう言えばいいんだ。これじゃあ、わざわざうちで雇って側においてる意味がない」
「なにか仰いました?」
「いえ、なにも…」
「私に務まることはたかが知れているのだから、少しでも力になりたいの」
「姉さんの仕事はいつも完璧ですよ。だからこそ雑務の全てを押し付けたくない。分かっては貰えませんか」
「先生のこなす仕事の責任の重みと、きちんと天秤にかけてください」
「おれにとっては全くの別問題なんです…………姉さんのお茶の味はおれだけが知っていればいいでしょう」
「え?先生、いまなんて?」
「……しがない弟の頼みでも?」
「…その言い方は、狡いわ一松くん」
「おれも、これだけは言いたくありませんでした」
「もう。わかりました。でも必要になったら、いつでも言ってくださいね」
「心に留めておきます」
「そうだ一松くん、夜、なに食べたい?」
「姉さんのつくるものなら、なんでも」



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