初めましてはこんな感じ


私が大学に入りたての頃だったと思う。
アパートに程近い公園での出来事だ。春の陽射しが暖かく、大学生にありがちな講義間の暇な時間を持て余した私は、公園のベンチでコンビニのスイーツを嗜んでいたのだった。
その穏やかな空間には野良猫が日向ぼっこをしていて、ああ戯れたい、と思った矢先。

ぬっと視界に入り込んできた猫背の男が私には目もくれずに野良猫へ向かっていく。
ボサボサの髪の毛、気だるそうな目、マスクをして社会に適合してませんと自ら発しているような出で立ちの男が、憂さ晴らしにまるで無防備な猫をどうにかしようとしている。そう直感した。

猫ちゃんを助けなければ。

とっさに腰を上げかけ、しかし私は、目の前の光景にあっさりと毒気を抜かれてしまったのだ。


「お前、今日はここにいたのか」
「ごろにゃぁん」

思いの外優しくしゃがみこんで、思いの外優しく野良猫の頭を撫でている。なんだ、仲良しじゃん。

あんな強面で猫と友達だなんて。

「なにあれ、ギャップ萌えってやつ?」

口をついて出てしまった言葉は、今頃両手で押さえても後の祭りだ。明らかに私の言葉に反応した男が、猫を撫でる手を止める。ジトリとした目線で睨まれ、もう命はないと思った。

緩慢な動きで立ち上がる。その腕にはしっかりと猫を抱えて、1歩を踏み締めて近づいてくる。
俯いた表情は見えない、ただ友好的なオーラを纏っていないことだけは感じ取れた。

まだ死にたくないですごめんなさい。

心の中でどれだけ叫んでも、声に出さなければ意味がない。そんな余裕はなかった。
そして男は、私の横を通りすぎていく。何もされなかった。そう認識できるまで幾分か時間がかかってしまった。

恐る恐る振り返った時には、既に公園を出て影も形もない。ようやく息をついて、無事を天に感謝した。

これが初めての邂逅とカウントしてもいいのか疑問が残るけれど、私と松との関係はここから始まっている。


あの時は、本当に人生終わったなと覚悟した。





一松は恥ずかしくて死にそうになった。



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