背負うよりハードな技です


いかにも合コンしてきましたって感じのイラつく顔で飲み屋街から出てきたリア充の中に、ハルをみつけた。ダダ漏れしてたリア充撲滅の呪詛は引っ込んだけどまったく喜ばしいことじゃない。

合コンね、僕は聞いてなかったんですけどね。ああいいんですよ別に、あんなリア充の巣窟に踏み入ったらゲルゲ通り越して物理的に塵と化すから、考えただけでウンコ漏れそうだから。無理絶対に近づけない。

すっげぇ楽しそうに今まで見たこともない小躍りしてるけど、さすがハルくらいにもなると合コンにも引っ張りだこですか。へぇ、そう。その千鳥足でお持ち帰りでも所望してるわけ。
じゃあ今日はハルんち行かない方がいいってこと。だよね。どうせ浮かれっぱなしの脳みそじゃスマホ鳴らしても気付かないだろうし。猫にかまけてたらいつの間にかとっぷり更けてて、もう晩飯も食いっぱぐれてる時間だからハル安定だったのに計算が狂った、くそ。


ただまあ、いざ女子大生を謳歌するハルの、僕が知らない交遊を目の当たりにしたら、都合のいい夢から叩き起こされた気分だし最底辺ですいませんねってマスクで隠した顔にフードもかぶりたくなるね。見つかる前にさっさとずらかるか。

「まつーー!!」
「嘘でしょ速攻でバレたんだけど…!」

予想外に叫ばれて耳としっぽが飛び出した。だってここ道向かいで車もめっちゃ走ってんのに!?頭ぐわぐわ揺れてるくせにめざとすぎでしょハル怖いよ。いや呼ばないで無理だから僕そっち行けないから、分かるだろ、な!?手招くなって!

「おいおいおい待ってハル…!」

だからってハルが来いとも言ってないから何やってんの車来てる轢かれる!分かった、分かったよ僕が行けばいいんでしょ、行くから!
あんな状態のハルを引き止めもしない奴らなんて、どうせそろいも揃ってクズなんだろ。そうに決まってる、そ、それなら臆することはないぞ。

…と必死に思い込んだ数分前の僕よ、眩しすぎて目ぇ潰れたよ。パリピ地雷です。体半分くらい溶けてるかも僕。

すぐ側に状況飲み込めてない合コン仲間がいるのに、脇目も振らないで頭をどっかに落としてきそうなハルが駆け寄ってきてするりと僕の首に腕をかけた。いや相手間違ってないの、これ。幻覚見えてる?マジで119番案件なんだけどそれ。
あれかな、キラキラしたものの中にゴミがあったら逆に目立つ、みたいな。

「まつー」

にっこりとハルが笑顔を向けてくる。
はい、松だよ。ハルのせいで死にかけてるよ。

「だっこ」
「は、え、だっこ!?いや聞いてないしいきなり何!てかスカートのくせになに言ってんの絶対パンツ見えるから!」
「だっこだっこだっこだっこ」
「あーあー」

先に言っておくけどお姫様抱っこなんて無理だからねハルんちでならまだしも、何より体力保たないから。
仕方なくスカートの裾を気持ち整えて、ケツの下に手を添える。これはこれで傍目にはとんでもない絵面だけど警察呼ばれませんように。
だっこ連呼に被せて黙らせたのはいいけど、これ、ケツから持ち上げればいいの?

「…ぐっ!」

たんまたんま腰いっちゃう駄目!
浮きかけたハルを一端降ろして呼吸を整える。腰、伸ばしたいんだけど離すどころか余計にくっついてくるハルさんは鬼か何かなの?重心とりやすくて最高ですわーあざーす。

「うぅ゙っ…」

背中にも手をまわして支えて今度はなんとか持ち上がった。パンツにまで気にかける余裕は微塵もないから丸見えかもしれないけど僕もジャージずり下がってる可能性が捨てきれないからお揃いだねハル。ふひっ。
つーかすげーきつい、猫背矯正ギプスかよ。踏ん張ってないと簡単に逆パカするって。

そしていい加減、誰だよこいつってのがありありのリア充のねっとり視線のせいで腐った生ゴミが溶けてなくなりそうだから逃げ出したい。
横取りしたみたいで悪いけど、ハルは諦めてもらわないとさ。だって離れないですし?僕から?

「ふひ、ひ。う、うちのハルが…どうも」

っしゃー!死にかけついでに言ってやったすっげぇ気分いいわこれ超優越感。かといって、ゆっくりと浸れるほど留まっていられるわけがないからヒエラルキーの上位を見下す最底辺の僕はそそくさととんずらをかましたわけだけど。もう二度とこんなこと起こらないでほしい身が持たないから。

小道に入ってリア充どもを視界から断絶させてやっと一息つけたら、埋めていたハルの首筋からボディーソープの匂いがして深呼吸する。いいにおい。もうそれどころじゃなかったからさっきまでは気付かなかったけど、相当テンパってたんだな僕。
…ん?

「…ハル」
「……」
「ハルー」
「ん」
「べつに酔ってないでしょ」
「ばれてーら」

だって全然酒のにおいしないもん。十四松じゃなくてもそれくらいは分かる。

「なんで振りなんかしたの」
「だーって。くっ……………っ!」
「ハルど、どうしたの気分悪い?」
「…ぅっ…………ぅぅっ………!」
「ま待ってどこか休めるとこ、あ、救急車っ」
「……っ…っそつまんなかったんだもん」
「いや溜めすぎでしょ」

泥酔してたらどんだけあり得ないタイミングで帰っても許されると思った、とふくれっ面のハルがとんだゴリ押しスタイルな言い分を並べ立てる。

「ついでに言葉の限りを尽くして誹謗してやるところだったけど、松が来てくれて助かったわ」
「あいつらがね」
「そういうことね」
「ヒヒッ、ハルのそういうとこ俺ちょー好き」
「私も松のノリいいとこマジ好き」
「飲みなおす?」
「なおーす!」

僕は聞き流してればいいからハルに好きなだけ愚痴らせて美味しい手羽先を奢ってもらおう。
あ、当初の予定通りハルと飯食えてんじゃん、クソほどつまらなかったらしいリア充どもに感謝しとこ。




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