にわかには信じられません


そんなこんなで、晴れて僕は気兼ねなくハルと連絡を取れるようになったわけだけど、ひとつ懺悔しておきたいんだよね。

あ、ハルからラインきたからちょっと待って。

誤送信も変換ミスもマシになったし、フリック操作だって、まだもたつくけど既読スルーだって思われるほどではないはずだし。何かミスして、例えば変換忘れて全部ひらがなで送った時とかは特にハルからの返信が露骨に遅くて僕の情緒がクソ不安定になるから、もうはやいとこ慣れたい。
ということを要点を掻い摘まんでハルに告げたらなんでか渋い顔をされたけど。
あ、ハルから返事きた。

少し前に、ありましたよね。若者の間でこの無料アプリでの人間関係がどうのこうの。スマホに依存してあーだこーだ。僕が言えた事じゃないけど、社会の社の字も知らないうちから面倒くさくてほんとくだらないこと課せられてご愁傷様だなって、あハルからだ。

だから何を懺悔したいのかって話ね、これすごく重要なんだけど、くだらないとか馬鹿にしてほんとクソすいませんでした。
死活問題だよねこれはね。うん分かるよ、今なら分かる。

だって、いつハルから連絡くるか分からないわけでしょ。そりゃスマホに張り付きもしますわ。僕が送ったライン見たかなって気になるのもしょうがないですわ。


「松?なにやってんの、こんなとこで」

こんなとこって、ハルの部屋の前でしょ、なにか問題あるの。さすがに縮こまっててもちょっと寒かったけど。

「ハル…遅い」
「え、ごめん。いや居るなら居るって言ってよ」
「へ…っくち!」
「…それわざとやってる?」
「俺の心配はしてくんないの」

はやく部屋入れて、と行儀よく鍵を開けるのを待っていたのに、ハルが難色を示してお預けをくらってしまって目が泳ぐ。あれ、僕なんか間違った?
ラインの内容はたぶん、おかしくはなかったと思うけど。

仔猫が産まれたよってことと、新しい友達ができたことと、御用達の煮干しがリニューアルしたら食いつきが悪くなったこととか…。
も、もしかして、この友達が猫だっていう注釈をつけるか迷って結局つけなかったから?それがいけなかった?


「なんのためのスマホよ、もう」
「ハルと猫の話したり……ちがうの」
「ん、んんっ…違ってはないんだけど。松が待ってるの知ってたらもっと急いだよ私」
「…あ」
「猫もいいけどさ、まずそこ連絡してよ」
「急いでくれんの、ハル。お、俺のために?」

操作うんぬんより先に慣れないといけないことができたかもしれない。でもハルがそう言うなら。

「次はちゃんと早く帰ってきてって言うんだよ、松」
「……うん」

僕が頷いたのを見てハルがドアを開けたから、招かれるまま玄関にサンダルを脱ぎ捨てる。
サンダルは、前に一応人んちだからって気を使って揃えなおしてたら、ハルに盗撮されてたから脱ぎ散らかしておくことにしてる。

食器棚から僕専用の猫模様のマグカップをとってしげしげ眺めてからハルに手渡した。催促したら、お湯を沸かしてくれる。ヒヒ、ミルク多めで。


急に来てもハルに引かれなかったし、新しいこと学んだし。三時間待ったかいがあったな。




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