12月の中頃、俺達雷門中は修学旅行で北海道に来ていた。3泊4日の旅行で一日目は観光、二日目から3日目まではスキーをして4日目に帰るという北国を満喫する日程になっていた。

そして、二日目に予定されていたスキーで俺達は北海道に住んでいる吹雪と再会した。なんでも円堂が修学旅行が北海道だと報告して偶然そのスキー場が吹雪の住む所と近かったらしい。「折角だから遊びに行くね」と約束していたそうだ。

再会を果たした後、俺達はスキー、吹雪はスノボーで真っ白な斜面を滑りまくった。俺は北海道での吹雪が提案した特訓を受けていなかったから吹雪のスノボーのテクニックは見たことがなかった。

「豪炎寺君は見たことないんだっけ?僕がスノボーしてるとこ」
「あぁ、北海道は初めてきたしな」
「そうなんだ、じゃあ見せてあげるよ」

鼻歌混じりに滑る用意をする吹雪。そういえば、かなり前に円堂が吹雪はウィンタースポーツが得意だとはしゃいでいた覚えがある。あの鬼道でさえ高評価していたのだからかなりの手練れなんだろう。

なんて思っている内に吹雪は雪の斜面を滑り始めた。






「あははは、豪炎寺君呆然としてるー」
「…吹雪」
「ん?なんだい?」
「お前はプロか」
「違うよー。一応、趣味の範囲で留めてるけど」
「お前ならいける…食っていけるよ…」
「何言ってるのさ豪炎寺君…僕、スノボーよりボブスレーのほうが好きだよ。凄く風を感じることができるし…」
「ボブスレーまでできるのか?!」
「え、うん…」

何故だ…吹雪が遠い人のように感じる…

「まぁ、一番はサッカーだけどね。サッカーは本当に楽しい」
「そうか」
「うん!さぁ、豪炎寺君!!一緒に風になろう!!」
「あぁ!」

そして俺達は俺はスキー、吹雪はスノボーを再開した。






PM11:52…北海道の旅館にて


スキーを終えて旅館に戻り、食事入浴を済ませた後は各部屋での自由時間となっていた。俺達は円堂が持ってきていたトランプで盛り上がり、消灯時間も忘れて楽しい暇つぶしをしていた。

そろそろ寝ようかと誰かが提案した時、開くはずのない部屋の窓がガラッと開いた。びゅぉおっと暖かい部屋に刺すような冷たい冷気が流れ込んでくる。

「こんばんわー」
「うおっ?!吹雪かーどうしたんだ?」

ひょっこり窓から顔を出したのは吹雪。待て、ここは2階だぞ

「豪炎寺君借りていい?」
「うん?いいぞ」

よくないだろ円堂
消灯時間は完全に過ぎてるんだぞ?

「吹雪、外出はちょっと…」
「バレなければ大丈夫だよ」

…バレたらどうするんだよ

「じゃあ、借りるねー」
「ちょ、吹雪っ…」


俺は吹雪に半ば引きずられながら部屋をあとにした。










「おい!どこに行くんだ!!」
「白恋中だよ。あ、寒い?マフラー貸してあげる。はい」
「あ…悪い」

じゃなくて!!

「白恋中に何の用があるんだ?」

ピタリと吹雪が止まったと思うと俺の手を離し、くるりと回って俺と向かい合わせになる。

「なんだと思う?」
「知らん。寒い」
「つまらないなぁ君って。ていうか、マフラー貸してあげたんだからそれで我慢しなさい」
「俺は寒いのは苦手なんだ」
「…つまらないって自覚はあるんだね。因みに、僕は暑いのが苦手です」
「知ってる。じゃなくて、あぁっ話が脱線する…!!」

いつもそうだ。何故か吹雪に問い詰めると話が脱線する。吹雪ははぐらかすのが上手いらしい。

「白恋中に着いたらわかるよ」
「寒い」
「…僕はその言葉から何を汲み取ればいいのかな?」
「寒い」
「もういいや、ほら行こう」

吹雪は再び俺の手を掴んで歩き出した。








「ほら、ここが白恋中。豪炎寺君は初めてでしょ?」
「寒い」
「校舎の裏はゲレンデになってるんだ。すごいでしょ?」
「寒い」
「…ねぇ、君さ。言葉のキャッチボールする気ある?」
「凍てつく」
「似合わない文句をありがとう」

やっぱり、涼野君の方がそれっぽく聞こえるなぁなんてぶつぶつ言う吹雪に引かれながら校門をくぐった。やけに不用心だなと思ったが寒いから突っ込まないことにした。

「滑るから気をつけてね」
「…ここ、池か?」
「うん。本当は小さな溜め池なんだけど、冬になると凍っちゃうからスケートリンクとして使ってるんだ」
「…落ちないか?」
「大丈夫だよ。落ちた前例なんてないし、それに今、夜だから溶けることもないしね」

校舎の入口の前にある溜め池は水が凍って氷が張っていた。つま先で強く蹴ってみるが、びくともしない。

「豪炎寺君、こっちこっち。ここに座って」
「……」

池の中心まで来ると吹雪は家から持ってきたであろうレジャーシートを敷いた。吹雪はそこに腰を下ろしたので仕方なく俺もそこに座った。

「紅茶淹れてきたんだ、あったまるよ?飲む?」
「あぁ…じゃあ…」

紙コップを貰って紅茶をついでもらう。しばらく紙コップ越しに伝わってくる紅茶の熱で手を温めて、そして紅茶を喉に通した。

「うん、美味い」
「そっか、よかったー」
「お茶したかったんなら外じゃなくてもよかったんじゃないのか?」
「違うよ、それが目的じゃない。僕の本当の目的は…」

吹雪は急にごろんと仰向けに寝転がり、そして真っ直ぐ夜空に指をさした。
無意識に俺は吹雪の指した夜空を見上げ、そして…言葉を失った。

「あ……」
「この夜空を…豪炎寺君に見せたかったんだ。空、すごく高く感じるでしょ?」
「あぁ…すごい…」



吹雪が俺に見せたかった夜空…それはとても広くて大きな夜空だった。星は小さいが、そのかわり数が多い。それがとても綺麗なんだ。東京の夜空と違って、高く高くに光り輝くとても小さな星がある。それはまるで…



「僕達がこの世界にとってもの凄く小さな存在だって、思い知らされてるみたいだよね」
「そうだな…」
「まぁ、実際そうなんだけどね。この世界にとって人類なんてちっぽけなものだよ。誰が死のうと生まれようと、この世界は微動たりともしない。動くとしても世界自身の運命だけさ」
「……そんなことはないと思う」

へぇ…と吹雪が嫌な笑みを浮かべる。変なところだけヒロトに似てしまって…

「じゃあ、君や僕が死んだら世界は動く?変わる?何か見えてくる?」
「俺はお前が死んだら世界は180°変わる。目の前は…俺の世界は一生真っ暗になるだろうな。見えてくるものなんて、死んだお前の笑顔以外ありえない」

不思議と恥ずかしくはなかった。吹雪はキョトンとしたあと、小さく苦笑した。わかってる、この解答は吹雪の質問とは少し違う。でも、吹雪はこんな風に自分のことを大切に思ってくれている人を欲していたはずだ。


だから、俺は本当のことを解答に乗せて吹雪に伝えてみたんだ



「ふふっ…そっかぁ…」
「あぁ」

幸せそうに笑う吹雪は寝た状態で俺にしがみつき、えへへなんて笑い続けていた。

「あ、」

吹雪の頭を撫でていると高い夜空に小さな流れ星が見えた。その時、俺が願ったのは勿論












『吹雪とずっとサッカーができますように』















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