「………きょうだい」
『どうしたんだ?』
「………」
僕の生まれ育った土地、北海道をあとにした僕達はエイリア学園の試合予告のあった京都の漫遊寺中に来ていた。漫遊寺中は試合予告があったのにも関わらず、生徒のみんなは普通の日常生活を送っていた。
僕達は漫遊寺中のサッカー部を探す途中で木暮君という生徒の悪戯にひっかかり、サッカー部の部長さんから木暮君のことについて話を聞かせてもらった。木暮君
に両親がいないと聞いて、音無さんが彼を気にかけ始めた。まぁ、それは僕以外のメンバーも気づきはしてるけど…特に鬼道君とか。
えーと、こんな状況になったのは皆が寝静まった頃に鬼道君が外に行くのが聞こえて追っかけてみたら音無さんと一緒に夜の散歩に行くことになったみたいで…うん、つけてみることにしたんだ。そしたら、なんか昔話なんて始めちゃって…鬼道君と音無さんが兄弟ってことを物語るような内容だったんだ。僕以外のメンバーはみんな知ってると思うけど…何か衝撃的で…。
名字が違うのはなんでだろう?なんて思ったけど、盗み聞きした罪悪感でそんなのどうでもよかった。
「鬼道君と音無さんも両親を…」
そして、木暮君も母親に捨てられて人間不信…なんか問題抱えてる人多いなぁ…って、まぁ僕もそこに分類されるんだろうけど…。家族全員いなくなって現実にグレてみました。二重人格者です。…木暮君よりたちが悪い。
「馬鹿みたいだなぁ…」
はははっと軽く笑いがこぼれる。でも、その馬鹿みたいなことに本気で悩んでいるのが事実だ。
「…僕はこの旅で何を得て、何を捨てることになるんだろう…」
故郷より少しあたたかい風に頬を撫でられながら、夜空を埋め尽くす星々を見た。
「なっ…」
「染岡のワイバーンクラッシュが…」
「必殺技もなしで止めた!?」
イプシロン戦にて、一点を取られた雷門の反撃で染岡君がジェミニストームのゴールを割ったワイバーンクラッシュを打った。でも、そのシュートはイプシロンのキャプテン…デザームによって止められてしまったんだ。
『俺のシュートならあんなの朝飯前なのによ』
「………」
現在の雷門のエースストライカーである染岡君のシュートが止められた今、雷門の勝利は遠くなった。
「これで最後だ」
「なんだと…!?」
「ゴールエリアラインからシュート…!?」
デザームが放ったボールはFWメンバーやMFのみんなをなぎ倒し、ついにDFの所まで来てしまった。
「俺が止めるっス!!ぐぅううううっ…うわぁあああ!!!」
「壁山?!わぁあああああ!!!」
壁山君と財前さんをも倒し、フィールドに立っていたのは音無さんの提案で雷門に一時的に入った木暮君一人だけだった。
「逃げろ!!木暮!!」
円堂君がそう叫んだけど、ボールはどんどん木暮君に近づいていく。
「危ない!!木暮!!」
「木暮君!!」
「ひぃいいいい…うわぁ!?」
木暮君は壁山君の足に引っかかりこけてしまった。その瞬間、ありえないことが起きたんだ。
「え…」
「なん…」
こけて足が上に上がった瞬間、足と足の間にボールが入り、木暮君自身がくるくると回転してしまった。でも、回転が止まる頃にはボールの勢いはなく力無くその場に落ちるだけだった。
「木暮君…ボールを取ったんだね」
コロコロと転がってきたボールを見つめながら僕はぽつりと呟いた。何故かよくわからないけど、いつの間にか生まれた僕の中のもやもやした気持ちが消えることはなかった。