「はぁっ…はぁっ…くっ…」

バタバタと無数の足音が聞こえる。そして、声も。怒鳴ってはいないが、脅すような声で俺を恐怖に駆り立てる。




『母親がどうなってもいいのか?』






何度その言葉を聞いてきたのだろう?俺はそれを聞くと一瞬だけ思考が停止する。俺は母さんを見捨てているのではないんだろうか?助けなければいけないんじゃないのか?









数日前、キャラバンを降りた俺は稲妻町に戻った。家に帰ってきた俺を出迎えてくれたのは自分の無力さとそれに対する悔しさだけだった。唇を噛み締めながら俺は明かりも付けずに自室へと向かいベッドに倒れ込んだ。そして、瞼を閉じれば深い深い眠りに入ってしまった。










「……?」

チャイムが聞こえる気がする…。ピンポーンと高い機械音にふと目が覚め、重い足取りで居間のインターフォンまで行く。スイッチを入れてモニターで訪問者を確認。その映像を見た瞬間、俺の意識は完全に覚醒した。


「なっ…!?」

『久しいな、豪炎寺修也』
訪問者はエイリア学園の男達数名だった。何が久しいだ。ふざけているのか?


「何の用だ」

男の第一声でこちらが干渉していることがバレているとわかったため問いかけた。

『最後の質問だ、豪炎寺修也…母親の代わりに自らを差し出し、我々エイリア学園の選手となって一緒に来てもらおうか』


そんなの答えはNOに決まっている。しかし、母さんがどうなるかわからない。宇宙人の奴らは俺達人間との価値観がまるで違う。平気で選手をボロボロにし、学校破壊だって行う。それを当たり前のように実行するのだ。だから、このモニター越しの男達も何をするかわからない。

『最悪の場合、お前を無理矢理にでも連れて行く』
「誘拐か…」

そう呟いた瞬間、ガチャガチャと玄関から鍵をいじるような音がした。本当に侵入してくるようだ。

「っ…」

玄関には奴らがいる。逃げることはできない。全力疾走で振り払えば逃げることは可能だが、成功する確率はかなり低い。ガチャガチャと鍵を弄る音が俺の焦りを駆り立てる。

「!…そうだ…!!」

俺はドアを開けられる前に玄関へと気配を消して玄関へと向かった。








「開いたぞ!!」
「入って豪炎寺修也を捕獲しろ!!」

バタバタと三人の男達が家に入って行った。男達が家中を探している隙に俺は靴箱の下から這い出て外へと出た。しかし、僅かにタイミングをミスしたようで後方から「いたぞっ」と言う声が聞こえた。
敢えて非常階段を使い、俺は夜の街へと飛び出した。











そして、冒頭へと遡る。男達も懲りずに俺を追いかけてくる。警察に頼りたかったが、そのことも脅しの材料に使われている。俺は誰にも頼ることができない。だからといって諦めて大人しく捕まる訳にはいかない。それは円堂達を裏切ることと同じになる。しかし、こうやって逃げ続けることは母さんを見捨てていることと同じなんじゃないのか?





「くそっ…!!俺は、…どうしたらいいんだっ…!!!」



そんなことをぐるぐると考えながら走っていると誰かに腕を引っ張られ、口元を抑えられてどこかの店に引きずり込まれた。








その日を境に、東京で豪炎寺修也を見た者はいない。












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