荒谷さんの知らせを聞いて僕達は校舎へと戻った。なんでも、今世間で問題を起こしているエイリア学園がこの白恋中に来るらしい。

何故こんな小さな学校を標的としたのだろうか?


白恋中のサッカー部は去年、僕とアツヤが二人で頑張って作った部。まだまともに試合をしていない。それなのに何故?



「多分、吹雪だろう」
「え?」



僕?僕が何?



「エイリア学園の方もお前に目を付けたんだろう。でないと、あいつらが俺達を追ってここまで来るわけがない」
「そうだな。エイリア学園も吹雪が伝説のストライカーだと思って早めに学校を潰すつもりなんだと思う…エイリア学園、今度は絶対に勝つんだ!!」

おーっだなんて気合いを入れてるけど…結局は僕のせいでこんなことになったってことなのかな…?本当はその情報は事実で僕はサッカーをやっていたし、サッカーが大好きだった。でも、もう止めたはずなんだ。離れたはずなんだ。なのに…



「こんな形で…迷惑かけることになるなんて…」
「?、吹雪?」
「え、」

あっ、今…僕、口に出して…!?

「何か言ったか?ていうか、大丈夫か?顔色良くないぞ?」
「う、ううん!何でもないよ、気にしないで?」

そうかと安心したように風丸君は円堂君達の話に加わった。



『ーー…二日後の白恋中学のグラウンドにて我々は待っている』

僕達は録画されてあったエイリア学園の宣戦布告の映像を観た。

二日後…その間に彼らは強くなれるのだろうか?円堂君達は白恋中の代わりに戦ってくれると言ってくれた。でも、彼らがエイリア学園に勝ったことは一度もないらしい。…正直、勝てるのか心配だ



『だったら、お前が試合に出ればいい』
「黙れ」
『俺がちゃんとシュートしてやるからよ』
「聞こえなかった?黙れって言ってるの。雑音は黙ってさっさと自然消滅しろ」
『…士郎』

これはアツヤじゃないんだ。僕が生みだした卑屈な塊だ。脳内に響くこいつの声はただの雑音でしかない。うるさいんだ、気持ち悪いんだ。自分が惨めに見えてきて嫌なんだ。

「僕がお前をどう扱おうと僕の勝手だよね?だって、お前を生み出したのは僕だしこの身体の主導権だって僕にある。お前は黙っていればいいんだ」
『…あぁ』
「うん。分かればいいんだよ、分かれば」

映像を見終わった円堂君達は練習のためにグラウンドへと向かいだした。僕も一緒について行こうとしたとき…雷門の監督さんに呼び止められた。



「吹雪君、ちょっといいかしら?」
「え?…あぁ、はい…」

何の話だろう?この監督さんって鋭そうだから僕の嘘がバレちゃったのかな?なんて思いながら教室で二人っきりになった瞬間、監督さんは口を開いた。



「吹雪君…あなたにはキャラバンに参加してもらうわ」
「は?」

何を言っているのだろう?いや、僕の嘘が見抜けたぐらいで飛躍しすぎじゃないかな?いきなりキャラバン参加?僕の実力もわからないのに?僕は伝説のストライカーでもないのに?

「あの、僕は…」
「わかってるわ。あなたが嘘をついていることも…あなたの過去も現在も」
「…でしょうね」

監督さんは少し意外そうな顔をした。わかってないとでも思ったのだろうか?

「僕のことを知っているのなら返事はもう、わかってますよね?…失礼します」
「最後まで聞きなさい」

踵を翻そうとしていた足を元に戻し監督さんと再び向かい合わせになる。まだ用があるのか?すでに僕の顔からは愛想笑いは跡形もなく消えていた。

「これは救いの手でもあるの」
「救いの手?」

何を言っているのだろうか?救いの手?僕に向けられた?どうして僕を救う必要なんてあるのだろう?

「吹雪君は親戚の人にかなり酷い扱いを受けているのよね?」
「………」
「…否定しないってことは肯定と受け取るわね。もし、あなたがキャラバンに参加すればその親戚から一時的だけれど離れることができるわ」
「…同情ですか?」

ええ、と当たり前のように言う監督さん。でも、心の底から同情している訳ではなさそうだ。この救いの手とやらは何かのついでにしかないと思う。

「同情してくださってありがとうございます。でも、僕はこの地を離れる訳にはいきません。特に家は絶対に空けたくないんです。僕がいない間に親戚の人に好き勝手されては困るので」
「土地の権利書、印鑑に通帳さえ手元にあれば好き勝手されなくて済むはずよ」

ああ言えばこう言うとはこのことか…。正直、僕の承諾うんぬんよりも叔父さん達が許さないと思う。いや、許さないだろう。しかも、離れるのは一時的だ。帰ってきたとき、本当に殺されるかもしれない。

「吹雪君、私があなたをキャラバンにどうしてもスカウトしたいのは…正直、戦力が必要だからよ」
「でしょうね」
「あと、それだけじゃないの。この旅はあなた自身を変えることができるきっかけでもあるの」
「僕は





変わらなくていいです」


「………」
「変わりたくないんです。変わり方がわかりません。何故、みんな変わろうとしているのか理解できません。僕に『変化』なんて必要ないんです。」
「…何故、そこまで変わろうとしたくないのかしら?」
「だって…僕が変わったらアツヤ…いえ、両親や弟が置いてけぼりじゃないですか。変わったら、この感情どころか存在さえ消えてしまいそうなんです」
「………」
「だから、ごめんなさい。僕にとって、『きっかけになる旅』の誘いはただのお節介としか思えないんです。だから…行けません」

再び踵を翻し教室から出ようとした。ガラッとドアを開けて閉めようとした瞬間、





「前を向きなさい」




一瞬、何を言われたのかわからなかった。無意識に振り向いて監督さんを見た。




「…………え?」
「聞こえなかったのかしら?じゃあ、もう一度言うわね。前を向きなさい」

変われの次は前を見ろだなんて…結構強引な監督さんだなぁ。

「吹雪君、私はあなたには幸せになってほしいの。これは監督としてじゃなく、あなたの事情を知った一人の人間としてあなたには…幸せになってほしい」
「監督さん…」
「この旅は苦しいことも悲しいこともあるかもしれない…いや、絶対にあるわ。宇宙人が相手ですものね…。でも、この旅で得られる物は沢山あるはず。そして、絶対に強くなれる」
「…保証は?」
「ないわ。しかも、私はあなたの力を利用するわ…現時点で円堂君達の力を利用しているし…」

監督さんは少しだけ悲しそうな顔をした。円堂君達の力を利用している…この人は何に揺り動かされているのだろうか?

「…わかりました」
「え?」
「監督さんに賭けてみます。はぁ…もー。キャラバンに参加します」
「吹雪君…」

半分投げやりだか、正直ここまで自分を求めてくれることが嬉しかったんだと思う。サッカーで利用されるにしろ、僕のことをちゃんと見てくれて幸せになってほしいとまで言われた。そんな人の頼み事を断る気もなんて失せてしまう。

「ただし、条件があります」
「…何かしら?」





僕が出した条件を監督さんは承諾してくれた。そして僕はキャラバンに参加することになったのだった。







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