『吹雪兄弟』を探しに来た雷門中はしばらくこの北海道に滞在することになった。白恋のみんなが雷門中の人達と雪合戦で遊んでいる間に僕と荒谷さんは雷門中の監督に呼び出された。かまくらの中で餅を焼きながら監督の話を聞くことにした。

…それにしても



「あの、監督さん。なんで僕まで?キャプテンは氷上君のはずなんですけど…」
「特に意味はないわ。ただあなたがマネージャーだから、という理由で納得するかしら?」
「はぁ…」
「吹雪ってサッカー部のマネージャーなのか?!」

ううぅ…またややこしくなってきた…
この監督さん、僕の正体知ってるんじゃないのかな?


そして、雷門中との話し合いが始まった。
とりあえず、理解したのは今この日本に宇宙から来たエイリア学園が次々と全国のサッカー強豪校を潰していっているということ。そして、目の前にいるキャプテンである円堂君が率いる雷門イレブンはエイリア学園を倒すために全国を旅しているということ。

「でも、ここのサッカー部は去年できたばかりの弱小チーム。エイリア学園の標的にはならないと思うけどなぁ…」

正直な感想を述べながら新しい餅を焼いていく。うーん…サッカーボール型にするのは気が引けるけど、円堂君ってサッカー好きみたいだし作ろう。

「本当は吹雪がサッカーやってたらキャラバンに参加してもらおうと思ってたんだけどさ…あの情報ガセだったし」
「あはははは…ごめんね」

ごめんね、嘘吐いてて


「何時までここに?」
「明後日までよ。天気の影響で長く滞在することになるけど、いいかしら?」
「あ、私…先生に聞いてきますね」

荒谷さんは逃げるようにかまくらから出て行ってしまった。僕一人じゃかなり辛い状況…

「吹雪はなんでマネージャーなんてやってるんだ?男がマネージャーなんて珍しいな」
「そんなことないよ、ただ…無責任なことしたくないから…」
「え?なんて?」
「ううん、なんでもないよ」

微笑むとそうかと言いながら円堂君も笑った。

「滞在中は特訓だな!!折角、雪が沢山積もる北海道に来たんだし雪を使って特訓したいなぁ!!」
「雪ね…雪原の中ドリブルの練習はさすがにキツいわね…」

それはさすがに僕もやってなかったなぁ…

「エイリア学園に勝つには、スピードを上げないとな」
「スピード?」
「ん?あぁ、エイリア学園の選手の動きだがさ、本当に速くて全然見えないんだよな…さすが宇宙人って感じだな」
「それは多分、目がその速さについてこれてないからだよ。自分が速く動くよう特訓する前に目をその速さに追いつくよう慣らさないと意味ないと思うな」

やってしまった…思わずぽろりと言ってしまった…

口を押さえても遅い。呆然と僕を見ている円堂君とその横にいるマネージャーの子の視線が…

「吹雪…」
「な、何かな?」
「お前、すごいな!!!」

へ?

「吹雪さん、すごいです!!あ、前の奈良での試合の意味もこういう事だったんじゃないんでしょうか?!エイリア学園のスピードを覚えるために監督はワザと…」
「さぁ、どうかしらね」

え?え??どういうこと?

とりあえず、僕がサッカーやってたことはバレてないからいいとして…

「吹雪!!」
「えーと…何かな?」
「どうやったら相手のスピードを見切れるようになる?!どんな特訓をやれば目が奴らのスピードについていける?!」
「え、えぇぇえええぇ…」

ぐいっと身を乗り出しながら僕に迫る。ち、近いよ円堂君…

うーん、あんまり乗り気じゃないけど言ってみようかな





「か、風になろうよ!!」
「え?」
「おいで、連れて行ってあげる。僕達を風にしてくれる場所にね…」
















「え、ここって…」
「ゲレンデじゃないか。ここで特訓するのか円堂…」
「いや、俺は吹雪に言われて…」

うーん、みんなサッカーの練習じゃないからご不満なのかな?でも、ただサッカーやってるだけじゃ手っ取り早く目をスピードに慣らすのは無理だと思うんだけどなぁ

「おーい、みんなー」
「あ、吹雪!?えっと、その格好…」

僕の格好は頭にはヘルメットをかぶり、プロテクターをつけている。そう、スノボをするための格好だ。

「ちゃんと見ててねー」

そう言うと軽くジャンプして雪の斜面を滑り出す。頬に刺すような冷たい風が過ぎる。向かい側の淵まで行くと空中で身体をひねって方向転換。そろそろいいかな?

「みんなーよろしくー」

はーいという声が聞こえてきたのを合図に僕は神経を研ぎ澄ます。みんなが転がした雪玉の気配を感じながらどんどん加速して滑っていく。目の前の雪玉をスルリと避け、僕を挟むように転がってきた雪玉も加速して避ける。
これができるようになれば宇宙人でも走る速さには目がついていくだろう。




風に、風になるんだ…!!








「ぇ…」

荒谷さんがスノボの特訓の意味を説明し終わり皆がスノボをやり始めようとした時、雷門中の二人の生徒を巻き込んだ雪玉が雪の斜面へとぶつかった。そこに生じるのは





雪崩…





「ぅ…う、来るなぁ…っ」

急に恐怖が支配して足が動かなくなる。滑るのを止めて僕はその場にうずくまった。

「吹雪ー?どうしたんだ?」

円堂君の声で我に返り自分が何をしていたのかを思い出した。心配させてはダメだ。

「う、ん…大丈夫だよー。失敗失敗…」

円堂君はそっかと言いながら楽しそうにスノボをやり始めた。他のみんなもぶつくさ言いながらもなんだかんだでやり始めた。


















「皆さん、結構上手になってきてますねー」

キャラバンが来てから2日が経った。彼らは今日の夕方にこの北海道の地を去ることになっている。夕方までみんなはスノボを滑りながら雪玉を避ける特訓をしていた。


「そうね、吹雪君から見て彼らはどうかしら?」
「うん!予想以上だよー!!」

雷門のマネージャーさんとそんな話をしながら皆の様子を観察していた。最初の頃はバランスがとれていなかった人達も、今ではあっという間に上手く滑れるようになっている。

「みんな、風になれてるよ…」


そんな会話をしていたら後ろでガサガサと音がした。おかしいな。雷門サッカー部の人達は全員ここでスノボをしているはずなのに。じゃあ、そこにいるのは何?


白恋中の生徒なのだろうか?いや、林は立ち入り禁止だったはず…じゃあ、いったい何が…?



「きゃああああぁぁぁあああああ!!!?」
「な…」
「え…嘘でしょ…」

ガサガサと林の中から出てきたのは





熊だった






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