「母さん…」

世宇子に勝ったその日、俺は父さんが勤めている総合病院に来た。勿論、そこに入院している母さんの見舞いと勝利の報告をするため。

「俺…勝ったよ…」

反応しないことはわかっている。
母さんは病気にかかっていた。とても重い病気だ。でも、父さんが数年前に手術をして成功した。


成功したはずだったのに…



母さんが目覚めることはなかった。
手術に使用した薬の副作用で今日までずっと眠っている。




「去年果たせなかったFFに優勝したんだ。あいつらと一緒に…」

それは円堂や鬼道…雷門サッカー部のみんなのことだ。

「俺がこうして仲間を信じ合ってサッカーができたのも、あの声のおかげかもな…」

目覚めることのない母親にずっと語りかけていた。そして、ふと自分が花を持ってきていたことを思い出し椅子から立ち上がって花瓶の方へと足を進めた。












「……しゅ…や…?」







え?







「しゅう…や?」



懐かしい優しい声

俺の名を呼ぶ…優しい…





「母さん…?」


忘れるはずのない母の声


「やっぱり…修也…」

ふわっと微笑む姿は数年前とは変わらないとても綺麗な笑顔

「母さん…ごめん」
「え?」

まずはこの話を伝えなければ
また母さんが眠りに落ちる前に
このことだけは…

「俺…夕香を守れなかった…」
「………?」

今にでも眠りそうなとろんとした表情で俺の言葉を待つ

ごめん、母さん…せっかく目覚めたのにこんな話をして…

俺は母さんに一年前の出来事を話した。





「本当に…ごめんなさい…!!俺、兄失格だ…!!俺のせいで夕香が事故に遭って、命を落として…俺は…!!」

母さんは泣きそうな俺の頭を撫でてくれた


「修也のせいじゃない…ひとりで抱え込まないで…」
「でも…!!」
「私だって、何もしてあげられなかった…母親なのに…副作用なんかに負けてずっと眠っていた…。あなた達が苦しんでいる間、ずっと眠っていた」
「母さん…」
「夕香…ごめんね…一緒にいてあげられなくて、ごめんね…。愛してあげられなくて…ごめんねっ…!!」

夕暮れ時の病室で俺と母さんはずっと泣き続けた















数十分後、母さんは再び眠りに落ちてしまった。さっき、母さんが退院したら父さんも連れて墓参りに行こうと約束した。それがいつになるかはわからないが、きっと…そう遠くない未来だと思った。











「豪炎寺…修也だな」
「……?」

家に帰ろうと病院の廊下を歩いていたら数人の黒い服を着た男たちに話しかけられた

「お前の母親を返してほしいのなら、我々の言うことに従え」

それだけ言うと男たちは姿を消した。

嫌な予感がする…

急いで母さんのいる病室に戻ったが








そこには母さんはいなかった




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