北海道のとある家にて…そこはとても暗い家でした。いや、違う…一年前までは明るくて幸せな家だったんだ。でも、ある事故が僕を一人っきりにして不幸にしたんだ。




「おい、士郎!!さっさと金を出せ!!いつまでお前は隠してるんだ!!」
「…ぐっ、お、叔父さん…お金になりそうな物は全部渡しま…あぅ!!」
「士郎ちゃん?まだ、叔母さん達ねぇ…あなたの両親の財産を預かってないの。叔母さん達が新しい家族になったんだから預けなきゃダメでしょう?士郎ちゃんはまだ中学生なんだから」

何度このやりとりをしたのだろう。


この人達の目的はお金だ。


おかげで家の中の家具は全くない。


あるとすればテレビとテーブルだけ。









『あのガキ、全然通帳出さねぇな』
『そうね、なんとか出させないとね。その金を使って旅行とか行きたいわね』



あぁ、狂ってる

僕のことなんて本当にどうでもいいんだ…


叔父さんに殴られた場所が痛い。叔母さんに斬りつけられたらとこが痛い。

なんだろ?




心も…イタイ…







「ぁ、あつ…ヤ…」



頬に伝う涙の感触なんてわからない



動く力もない




『士郎…』
「(うるさい、でてくるな)」
『っ…もう、寝ろ。な?』
「(ベッド…行かなきゃ…)」



あ。






ベッドももう、ないんだっけ?























「ふ、吹雪君…」

次の日の朝、僕は早めに家を出て学校へ向かった。家にいたくないのもあるけど、保健室に行って傷の手当てをしたかったからだ。そして、教室に戻ろうとしたとき荒谷さんから声をかけられた。

「ん?おはよう。どうしたの?」
「吹雪君…大丈夫?傷、増えてない?」

荒谷さんは僕の家での事情を薄々気づいているのかも…でも、心配させる訳にはいかない。

「大丈夫だよ。これはちょっと階段で転んだだけなんだ…気にしなくていいよ」

あははと笑ってみせるけど、荒谷さんの表情は変わらない。

「吹雪君は…嘘が上手いね…」
「ぇ?」
「ううん、なんでもない。あのね、吹雪君…サッカー部に…」

またか…

「ごめんね。僕はもう、サッカーはしないんだ。じゃあね」




僕はサッカーをやめた。勿論、サッカー部も。だけど、僕とアツヤが一生懸命に部員を集めて作ったサッカー部…自分で作って自分勝手な理由で辞めるのはさすがに無責任すぎる。だから、僕はサッカー部のマネージャーとしてサッカー部に再入部した。




これでよかったんだ…










「ただいま…父さん、母さん…」

マネージャーの仕事が終わった後、僕はいつも北ヶ峰に行く。北ヶ峰の大きな一本の木の下…そこが本当の僕の家だと思う。アツヤは東京にいるけど、きっと北海道に帰ってきてると信じてる。

「僕って…生きてる意味なんてあるのかなぁ…」

木の根本に座って話しかける。勿論、父さんと母さんに。

「ぁ…もうすぐで雪が降るから掘らなきゃ…」

僕が丁度座っている所の地面の下には通帳や土地の権利書などが入った缶が埋めてある。勿論、叔父さん達に渡さないため。絶対に見つかることはないが、冬になると雪が積もるから掘りにくくなってしまう。

「今度はどこに隠そうかな…」

乾燥した地面を撫でると、びゅぅっと風が吹いた。







「冬が来る…」




北の大地に春を招きながら…



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