見事に木戸川清修に勝利し誤解も解けた後、円堂の様子がおかしくなった。原因はなんとなくわかる。きっと、木戸川清修戦でゴッドハンドが通用しなかったからだろう。トライアングルZを阻止できたのは壁山と栗松のおかげだ。あの二人が円堂に協力しなかったらきっと、雷門は負けていた。

「はぁ…このままじゃ、世宇子のボールを止めることなんてできない…」

かなり凹んでいるようだ。

「こんな円堂初めて見るよ…」
「俺もだ…」

一ノ瀬と土門の言うとおり、俺も初めて見た。いつも前向きに、考えることよりも先に行動に出る円堂がここまで落ち込むなんて珍しい。

「このタイミングで言うのもなんだが、…世宇子の技はすべて木戸川清修に勝っている…トライアングルZなんかよりかなり強力な技を使うぞ」
「き、鬼道…」
「お前、空気読めよな…」

普通の円堂だと、このことを聞いて「燃えてきた!!」って叫びながら練習に打ち込むんだが…今の状況じゃ凹みに凹みまくるだけだな…。

「円堂、お前にとって、特訓が一番強くなる方法じゃなかったのか?凹む時間があったら特訓をする…それが俺の知ってる円堂守だったんだけどな」

そう言った瞬間、ガタンと勢い良く立ち上がった。顔は真顔、正直に言おう。円堂の真顔はかなり怖い。

「決めた」
「な、何を…?」
「俺、特訓する。特訓しまくって、じぃちゃんが考えた必殺技を自分の物にしてみせる!!」
「必殺技?」

これだよと言いながら手に持っていた古ぼけたノートを開いて見せてくれた。…いつ見ても読めない…

「『マジン・ザ・ハンド』って言うんだ」
「マジン・ザ・ハンドか…これなら世宇子のシュートも止められるかもしれないな…」
「だろ?!で、ここがポイントみたいなんだけど…」

ノートに描いてある人らしき絵の左胸あたりに赤い円が書かれていた。

「心臓?」
「心臓を使ってどうするんだ?」
「それがわかんないんだよなぁ!!」

頭を抱えて悩む円堂…本当にこんな円堂初めて見た。

「とりあえず、頭でイメージして練習あるのみじゃないか?」
「イメージか…イメージ…うむむむむむむ」

今回はかなり高い壁に突き当たったようだ。
















「あったたたたた…」
「大丈夫?円堂君…」
「まったく…あんな無茶な練習するから…」

部活が終わった後、円堂は風のごとく部室を飛び出していった。そして、俺は鬼道と一緒に下校するつもりだったが、円堂の特訓に付き合ってやろうということになり二人で鉄塔広場に向かった。案の定、円堂はそこでタイヤを使って特訓をしていた。そして、3人で特訓をしていた時に円堂の頭にボールが当たり目を回してしまった。頭を冷やすべく、円堂を近くにある雷々亭へと運んだのだ。

「今回は結構無茶をしてるみたいだな、円堂」
「今、マジン・ザ・ハンドの練習中なんです。響木監督はできましたか?マジン・ザ・ハンド…」
「いーや、俺はできなかったな。そうか、お前があの技をか……大介さんの血が流れてるお前ならできるはずだ。頑張れよ」
「ありがとうございます…!!」


しばらく円堂の頭を響木監督からもらった氷で冷やしていると突然店の扉が開いた。客だろうと思ったが、入ってきたのは鬼瓦警部だった。

「あ!!鬼瓦警部!!こんばんは!!」
「おぉ、こんばんはサッカー少年」

鬼瓦警部は扉に近いカウンター席に腰を下ろした。そして、響木監督が水を渡す。

「かなり疲れてるみたいだな。どうしたんだ?」
「いや、ちょっと影山のことでな…」
「影山…!?」

誰よりも早く反応したのがやはり鬼道だった。鬼道の顔がかなり険しくなる。

「あのデータの中も気になるが…いや、40年前に起きた雷門イレブンを乗せたバスの事故…やはり影山が絡んでいたんだ」


40年前の真実…

影山が原因だったとは…

そのことを聞いて怒りが溢れてきた。円堂なんてかなりキレている。

「実力のある学校や選手を怪我をさせたりする…どんな手を使ってでも勝利を求める。それが影山零治だ」

幼少期から影山を見てきた鬼道は影山のことをかなり理解している。影山…何故そんな非道な手を使うのだろう…

次に鬼瓦警部から告白された真実に俺は…影山の本性を理解せざるおえなくなる。









「豪炎寺、お前もその一人なんだ。妹さんの事故…影山が絡んでいるかもしれない…」



は…




今、何て…







「おかしいとは思ってたんだ。ニュースでは事故のことにはあまり触れずに自然消滅させられていたからな…。新聞にだってそのことが大きく取り上げることはなかった」
「確かに、豪炎寺は木戸川清修のエースストライカーだった。しかも、その事故が起きたのはFFの決勝の数時間前だ。決勝にエースストライカーであるはずの豪炎寺が出場していなかった…事故に逢ったのが豪炎寺の妹…何故記者達はそのことについて何も触れなかったんだろうな…」
「…つまり」



事故を起こしたのは影山…



その事故で夕香は死んだ…



自分の罪を隠すために権力で夕香の死をもみ消した…










影山が夕香を殺した…















「っ!!!!」
「豪炎寺…」

決勝戦の前に夕香からペンダントを服の上から握り締めた。





「夕香っ…!!!」





やっぱり、俺のせいだったんだ


夕香が死んだのは




俺がサッカーをしていたから








サッカーなんてやめれば「「豪炎寺!!!!」」





二人の声が聞こえ、俺は我に返った。
俺は…また…

「豪炎寺…サッカーやめちゃ駄目だ!!また逃げるのか?自分と向き合うって言ったよな?逃げないって決めたんだろ?その決意からも逃げてどうするんだ!!」
「お前の気持ちはわかる…影山の復讐を望むのならサッカーで復讐しろ!!」
「そうだ!!サッカーでぎゃふんっと言わせるんだ!!そして、夕香ちゃんのことをちゃんと世間に…」
「円堂…鬼道…」
「その手があったな!!このことを世間に流せば影山の逮捕は確実だ。副会長の地位も剥奪できる!!」



俺はまた逃げようとしていた。でも、今はこんな俺を支えてくれる仲間がいる。俺は…この手で…いや、この足で影山と決着をつけてみせる…!!









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