俺が拾ったコスプレ少年は常識がなかった。本当に何も知らない。人間としての最低な知識さえも皆無に等しい。普通に会話しているのが不思議なくらいだ。
…とりあえず、こいつの正体はなんなのだろう?
俺が風呂から上がった時には、あいつは寝ていた。寝間着代わりに貸したカッターシャツを羽織るだけでソファーの上に丸まって気持ちよさそうに寝息をたてていた。
こいつを洗っているときに疑問に思うことがあった。
『…あれは本当に玩具なのか?』
あれとはこいつの頭に付いている大きな三角の獣のような耳のことだ。触ってみたところ本物みたいに温かいし、犬のようにぴくぴくと反応をみせる。さっきコイツがあんなに驚いて起きたのは俺が思いっきり尻尾を握ったからだ。
………こいつは人間じゃないのか?じゃあ、人間以外になにがある?
「…犬?」
という結論に行き着いたが、なんか違う気がする。
「……今聞けばいいか。よし…」
「ぎゃんっ!!!???」
尻尾を握って強制起床させた。
「またぁ?痛いよ…もぉー」
涙目になりながら尻尾をさする。本当に本物みたいだ。
「起こして悪かったな。…単刀直入に聞くが、お前は何者だ?人間じゃないだろ?」
一瞬きょとんとして俺を見た。
そういえば、こいつの名前聞いてなかったな。
「あと、名前」
「言わなきゃ…ダメ?」
「駄目だ。呼びづらい」
そして、意を決したのだろう。目つきがするどくなった。
「僕は、吹雪士郎。…半獣だ」
…半獣
「…半獣?あの半獣か?」
「うん、半分人間で半分獣の半獣だよ」
それはただの仮想の物じゃないのか?
しかし、こいつ…吹雪の耳と尻尾が何よりの証拠。半獣は存在し、吹雪を半獣だと認めざるおえなかった。
「じゃあ、なんで半獣のお前がここにいるんだ?半獣なんて世間でも公開されてないだろ?危ないんじゃないか?」
そう言った瞬間、空気が変わった。吹雪は長い睫毛を伏せて自分の太股へと視線を落としていた。
「…僕は逃げてきたんだ」
「逃げてきた?」
「研究所から…」
「研究所…?」
研究所なんてこの近くにあったか?しかし、何故研究所なんかにいたのだろう?
「僕のいた研究所では多くの半獣が飼育されているんだよ」
「飼育…!?」
「半獣は外見や能力によって躾の内容が違って、愛玩用として育てられたり戦闘用として育てられたりしているんだ」
その説明を聞いて絶句した。
飼育?躾?
半分違うだけでこんなにも扱いが違うのか?
「……」
「大丈夫?えーと、修也…君?」
「…なんで俺の名前を?」
「さっき出て行った人間がそう呼んでたから」
「あぁ、そうか」
おそらくフクさんのことだろう。同い年の男に下の名前で呼ばれるのはちょっと…くすぐったい感じだな
なんて思っていた俺に吹雪は爆弾発言を投下。
「言っておくけど、僕は愛玩用でも戦闘用でもないからね…昔はそうだったけど」
「は、」
「僕はね
性欲処理用なんだ」