夏休み終盤に入る頃…
焼きトウモロコシの香ばしい匂いが漂う人混みの中を俺は小さくて真っ白な恋人と歩いていた。


「豪炎寺君!!かき氷があるよ!!」
「そうだな」
「かき氷があるよ!!」
「あぁ…」
「かき氷があるよ!!」
「………」



普通に買ってって言えないのか…?



そう、俺達は今日花火大会に来ていた。まぁ、本命は屋台のほうだが…

「豪炎寺君っ豪炎寺君っりんご飴!!」
「はいはい」

苦笑しながら吹雪の後をついていく。吹雪が楽しんでくれるなら良かったと。俺は思った。





「豪炎寺君!!焼きトウモロコシ!!」
「まだ食うのか…」

呆れながらも買ってやる俺も相当甘いが…吹雪の食欲がすごい。こんな小さなからだのどこにあの量が入るのだろう。吹雪が食べたのはかき氷×5、りんご飴、綿飴、たこ焼き、焼きそば×3、フランクフルト×4、そして今頼んだ焼きトウモロコシ。尋常じゃないくらい食べている。そして、まだ余裕そうだ。

「んー…次は豪炎寺君が行きたいとこ行こっか。僕につき合わせちゃったね…」
「いや、お前が行きたい場所に行っていいぞ?」
「えー、別に僕は何か食べられればどこでもいいんだけどなぁ…」


どんだけ大食いなんだ、お前は…


「俺はとくに行きたい所なんてないから、吹雪が行きたい場所についていくが?」
「じゃあ、ラブホに行こう?」
「ぶっ!!!」

盛大に吹いてしまった。いや、ナチュラルになんてこというんだコイツは…

「大丈夫、僕頑張るから…!!」
「…吹雪、かき氷食うか?」










「あ…」
「ん?」

吹雪に6杯目のかき氷を買ってやってぐるぐると屋台を回っていたら、吹雪は一つの出店に目を付けた。




「金魚…すくい」
「…金魚は食えないぞ」
「わかってるよ!!」

軽くからかって、俺達は金魚すくいの出店へと近づいた。

「金魚がいっぱい…」
「そりゃそうだろうな」

キラキラした目で金魚を見るもんだから、本当に食いそうで怖い。

「…やるか?」
「んー…えへへ、僕はいいやぁ…」
「おじさん、ポイ2つ」
「ぅえ!?豪炎寺君?!」

吹雪がなんとなく遠慮してる気がした。いや、絶対に遠慮している。とりあえず、理由は大体わかる。

「お前、この年になって金魚すくいとかやって変に思われるんだろうなぁとか思ってるんだろ?」
「な、なんでわかったの!?」
「なんとなく」

おじさんからポイを2つ受け取って一つ吹雪に渡した。

「ぼ、僕…金魚すくいなんてやったことないよ…?」
「そうなのか?」

あぁ、だからやりたそうに見ていたのか

「ど、どうすればいいの?」
「金魚が水面に近いところにきたら、そのポイですくうんだ。このお椀に入れるときは滑り込ませるようにな」
「う、うんっ…わかった…!!」

そして、吹雪はポイを構えた

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「………おい…」
「ご、ごめんっ…その、緊張しちゃって…」

あははと笑って誤魔化しながら再び構える。…目がマジになってる…

「……ここだぁあああああ!!!!」

吹雪の大声と共にぼちゃんという音が聞こえた。












「ふんふんふふーん♪」
「よかったな、吹雪」
「うん!!」

あの時、吹雪はポイを使って金魚を一匹すくってみせた。すくったんだ…ポイの縁で。

「(まさか、縁を使ってすくうとは予想外だったな…)」
「んー?豪炎寺、どうしたの?」

さすがに縁ですくうのは反則だから、吹雪がもらった一匹は俺がすくった金魚全てを犠牲にして貰った物だとは言えなかった。


「豪炎寺君、花火始まる?」
「ん?あぁ、そういえばそんな時間だな」
「鉄塔広場に行こうよ。色々、買ってからさ」
「あぁ、そうだな」

吹雪は人格が統合してもトラウマまでは克服できなかった。未だに大きな音が苦手だ。勿論、花火の音も。だから、今年は遠く離れた鉄塔広場から花火を見ることにしたんだ。

「豪炎寺君…ごめんね?僕のせいで花火を近くで見れなくて…」
「俺はいい。お前は大丈夫なのか?」
「……花火ってわかっててもダメなんだ。大きな音は怖い…」

緊張しているのか、吹雪の身体は震えていた。

「耳栓、買ってくか?」
「んーん、いい。花火は音だけ消しても意味ないから」「確かに、振動はどうしようもないもんな」
「違うよ」

吹雪はくいっと俺の服を引っ張った。
そして、上目づかいで言った。


「豪炎寺君の声…聞こえなくなっちゃうもん…」


その瞬間、大きな花火が打ち上げられた
鉄塔広場だと音はあんまり大きくなくて吹雪も怖がらなかった。

いや、俺たちは花火どころじゃなかった。吹雪は恥ずかしかったのだろう、頬を真っ赤に染めて涙目になりながら上目づかいで俺を見つめている。

沈黙を打ち砕くように花火の弾ける音が聞こえる。


吹雪が手首からぶら下げていた金魚の入った袋の水が花火の光を反射してキラキラと輝いていた。












金魚花火









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