ザ・キングダム戦の前のライオコット島にて、俺はスタスタとジャパンエリアを歩いていた。
「…吹雪のやつ、どこ行ったんだ?」
吹雪を探すために。
エイリア学園の戦いの時からも俺は吹雪のお目付役のような立場になっていたが…FFIでもまだ俺はお目付役から卒業させてもらえないようだった。
「はぁ…いない。あいつ小さいから俺が見逃してるだけなのかもしれないな…」
なんて酷いことを言いながらも俺は吹雪を探し続けた。
「ん…?」
商店街を歩いていると不良達が集まって何かを囲んでいるのが見えた。小さい銀色の癖っ毛と見覚えのある二葉が見えた瞬間、サァーっと血の気がひいていくのがわかった。
「吹雪!?」
吹雪が不良にリンチされていた。
「ぅっ…ぐ!!…あぅ!!」
「ほーら、今なら許してやってもいいぜ??その可愛らしい額を地面にこすりつけてなっ!!」
「ひゃはははははは!!!そりゃ見てみたいなぁ!!FFIの代表様が俺達に土下座して許しを伺うとか傑作だなぁオイ!!」
「だ、誰が…!!そん、なことっ…!!うぐっ!!」
「ほら、言えよ!!お「おい」
かなり低い声で声をかければかなり驚いて振り向いた不良達の顔に笑ってしまう…
なんて、今の俺にはそんな余裕はない。
「な、なんだガキィ!!」
「やんのかゴルァ!!」
今の俺の感情は完全に顔に出ているのだろう。不良達の態度がさっきとは異なって、戦闘態勢になっていた。
絶対にFFIの間は暴力沙汰は起こしたくない。俺は不良達を掻き分けて吹雪を救出した。
まず、吹雪の安全が第一だったからだ。
「豪炎寺君…」
「吹雪、走れるか?」
「あ、うん…」
そして、しつこく追ってくる不良達を振り切るために俺たちは全力疾走でジャパンエリアから離れた。
「大丈夫か?」
「……」
俺達は必死に逃げて、いつの間にか海岸に来ていた。改めて吹雪を見てみると、上半身だけボロボロになっていた。必死に足だけ守ったのだろう。そして、片手にはライオコット島の気温には似合わない真っ白なマフラーを大事そうに抱えていた。
「吹雪…それ…」
「あぁ、うん…これ…ね」
苦笑混じりにマフラーをみせてくれた。
やっぱり、アツヤのマフラーだった。
「どうしてこれを?そして、なんで不良なんかに絡まれていたんだ?」
穏やかな性格の吹雪が不良に喧嘩を売るなんてありえない。きっと何かあるのだろう。
「僕が悪いんだよ…こんな暑い気温の中マフラーなんて持ち出したから。ただでさえ暑いのに、マフラーなんか見たら余計に暑くなるよね…だから、それにイライラして絡まれたのかも…」
「でも、やけに反抗的だったよな…」
「あれは…その、…マフラー踏まれちゃったから…」
そのマフラーはアツヤの形見。それを踏まれた…
「…怒るな…それは」
「うん、さすがに僕も頭にきちゃってね…でも、今はFFIに出場してるから喧嘩なんかおこして出場停止なんかになったりしたら嫌だし…」
みんなに迷惑かけちゃう、と俯きながら弱々しくマフラーを抱きしめる。
生温い潮風が吹雪の白銀の髪を仰ぐ。一緒にマフラーがたなびく。
マフラーを持っているだけなのに吹雪は雪原の真ん中で一人泣いているように見えた。生温いはずの風は吹雪の頬を撫でるたびに冷たそうに見える。
それは俺の想像であり、吹雪に対しての印象でもある。冷たいんだ。何もかも。
「…豪炎寺君?」
「ん」
軽く両腕を広げる。吹雪は不思議そうな顔をして俺を見つめている。どうやら俺の行動の意味を理解できないらしい。
「ほら、こいよ」
「え、…?」
「マフラーを持ち出したってことは何か悪いことでもあったんじゃないのか?」
「………」
「なんでもかんでも一人で抱え込むな。偶には人に頼って甘えろ。じゃないとー……」
言い終わる前に吹雪は顔を伏せながらスタスタと早足で俺の前まで来た。そして細くて折れそうな腕を俺の背中に絡めて、ぎゅっと抱きしめた。
そして、俺も吹雪の背中に腕を絡めた。
「我慢するな…」
「………」
ぐりぐりと俺の胸に額を押しつけてくる。甘えているのだろうか?それとも…
「吹雪?」
「…っもっと強く抱きしめて…!!」
若干涙声での御命令。さらに、吹雪を強く抱きしめた。
「ぼ、僕がいいって言うまで…ぅ、僕の顔見ちゃだめだからねっ…」
「わかったよ」
ぽんぽんとふわふわな頭を撫でると、吹雪の白銀の髪から光の粒子が舞った。粒子は太陽の光によってさらに輝きを増し、雪原のような砂浜にゆっくりと落ちて見えなくなった。