千羽山中に勝利した俺達は、次に勝てば世宇子中だった。そして、今日音無に告げられた準決勝の相手が


「木戸川清修とはな…」
「豪炎寺…?」

円堂から心配そうに見られる。大丈夫だと言ってみんなよりも先にグラウンドに出た。











練習帰りに俺と円堂と鬼道とで公園で作戦会議をしていたが、円堂に連れられて駄菓子屋に来ていた。
俺は隣にあった自動販売機でジュースを購入しながら鬼道と共に駄菓子屋の存在を懐かしんでいた。しかし、円堂と子供達が誰かと抗議する声が聞こえてきた。なにがあったのかと鬼道と共に駄菓子を覗いた。

「割り込みはいけないぞ!!」
「お前ら、順番守れよな!!」
「うっせ!!」
「あんたち、ちゃんと並びなさい!!」

見覚えのある制服に同じ顔。
まさか…


「お前ら…!!」
「久しぶりだな…決勝から逃げたツンツン君」

木戸川清修で一緒にプレイしてた三兄弟。駄菓子屋の中で変なポーズを決めて自己紹介をしているが…とりあえず、恥ずかしい。


「え、は?なんなんだよ?!こいつらっ」
「去年、豪炎寺の代わりに決勝出ていた木戸川清修の3TOPだ」

淡々と武方三兄弟の説明をする鬼道。そうか、俺の代わりに出場したのか…

「さすが鬼道有人…有名な選手のデータは全てインプットされてるみたいじゃん?」
「ふっ…三つ子のFWが珍しかったから覚えていただけだ」
「なに!?今年の俺たちの活躍を知らないっていうのか?!豪炎寺がいなくても勝てるって証明したのに…!!」
「今の木戸川清修は史上最強と言ってもいいでしょう。豪炎寺よりもすごいストライカーが3人もいるんですからね」

自信満々な武方兄弟。こいつらの言いたいことは理解できた。
きっと…








「俺たちが豪炎寺修也をたたき潰してやる!!」
















「豪炎寺…覚えているか?去年の決勝のことを…!!」
「……」

覚えているさ。その日は応援に来てくれるはずだった夕香が事故に遭った日…そして、夕香が永遠の眠りについた日…

「豪炎寺…お前は俺たちを裏切ったんだ!!お前がいれば勝てると思っていた…だから、俺たちや先輩はお前に希望を託したんだ!!」
「でも、お前はその期待を簡単に裏切った!!試合に出場するのが怖くなって逃げ出した臆病者だ!!!」
「違う!!豪炎寺は…!!」
「円堂っ!!」
「でもっ…!!」

そうだ、俺は臆病者だ。転校する前に木戸川のサッカー部に来なかった理由を言わなかったのは、夕香の死を受け入れたくなかったから…そして、俺を認めてくれて応援までしてくれた先輩方に会うのが怖かったんだ。自分と向き合わずにサッカーをやめようとしたときだってあった。今でも自分のサッカーが怖い。 

「俺は…こいつらの言うとおり『臆病者』だ」
「豪炎寺…」
「…でも」



雷門中のサッカー部に入って



円堂や鬼道…新しい仲間に出会って



俺は…



「俺は、もう逃げないって決めたんだ。だから、もう目を逸らさない」

「豪炎寺…!!」
「ふっ…」
「武方、俺は昔とは違う。俺はちゃんと試合に出てお前らと戦う。そして、絶対に勝ってみせる…!!」
「言い訳したって俺たちは信じないぜ?お前は裏切り者、俺たちは恨みを晴らす。それだけだ…みたいなァ?」

何を言われたって構わない。伝わらないのならサッカーで証明すればいい。

「せっかくだし、偵察するよ。今の豪炎寺君の力をみてみたいな…みたいなァ?」
「俺が相手になってやる!!豪炎寺が悪くないってことを証明してやる!!」




















その様子を駄菓子屋の屋根の上から見ていた二人の人間であったものがいた。青い炎とオレンジの小さい炎。人間の形はしているが、その姿は透けていて普通の人間には見えない。

『もう、大丈夫だな。あいつは』
『そうだね、アツヤお兄ちゃんのおかげだよ!!お兄ちゃんを助けてくれてありがとう!!』
『俺は軽く説得しただけだぜ?ま、俺にとっては罪滅ぼしのような感じだけどな』
『アツヤお兄ちゃん…』
『助けられなくてごめんな?』

ぽんっとオレンジ色の炎に手を置き、頭をなでる。その表情はとても悔しそうだった。

『ううん、いいの。ありがとうアツヤお兄ちゃん』
『そうか…………………あとはお前だけだぞ…士郎』


そして、二つの炎はすぅ…と消えていった。



























「…あ、風が止んだ」


冬が来る。

否、冬が待っている。

とある広大な土地にて、少年は来るはずのない偽りの春を待ち続けている。



















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