追っ手を振り切った後、僕はふらふらと道を歩いていた。夜だから人の気配はなく、僕の影だけが僕に合わせて動く。
ペタペタと裸足で歩いていると、視界がぼやけてきた。
そして、
…どうなったんだっけ?
「修也さん、今日はこれで…」
「お疲れ様です、フクさん」
フクさんっていう人がこの家から出て行った。そして、この修也という少年は何者なんだろう?新手の追っ手?それとも研究員?とりあえず、警戒しとこう。
「おい」
「な、何かな?」
彼の漆黒の瞳が僕を射抜く。
睨みつけられてるみたいで、ちょっとムッとくる。
「お前、名前は?」
「名前?」
名前なんて聞いてどうするのだろう?
というか、追っ手なら知っている筈だろう?あぁ、そうか。確認か…
「なんで教えなくちゃいけないの?別に君となれ合うつもりはないのに」
「はぁ?ただ単にお前を呼ぶときに困るからだろ?何言ってるんだ?」
さも当たり前のように返答されて僕は困惑していた。この人は追っ手じゃないのか?じゃあ、何者?
「とりあえず、風呂入るぞ。フクさんがお湯張ってくれてたみたいだからお前から入れ」
「…………」
簡単に入れっていうけどさぁ…
「僕、お風呂嫌い…」
「はぁ?」
「嫌い」
だってあんなの好きになれるわけないじゃないか…熱いし。
「だからお前、獣臭いんだな!?」
「え、」
「そんなの俺が許さん!ほらっ入れ!!」
「ぇ、ちょ…まっ!!」
強制的に浴室に入れられて焦る僕。
え、待ってよ。僕の意志は無視?
「これがシャンプーで、これが…おい」
「………」
シャンプーって何さ
「こっち向け。聞かないとわかんないだろ?」
「………シャンプー……」
「?」
「シャンプーって何!?」
うわー退いてる顔…しょうがないじゃないか、使ったことなんてないんだから
「……ていうか、お風呂って熱湯か冷水浴びておしまいでしょ?君、よくそんなのに耐えられるね」
「はぁ?」
「僕は熱湯より冷水のほうがいいな。でも、あの人達ってお風呂は身体を温めるものだって言って熱湯かけるんだよね。火傷するから嫌なのにさ」
「お前…」
?なんでそんな顔するの?僕、変なこと言った?
「……虐待じゃないか…それ…」
「?ギャクタイ?」
彼の顔が険しくなる。どうしたのだろう?
「……話は後だ。とりあえず、さっぱりしろ」
「え?!やだよ!!熱いんでしょ!?冷水のほうがいい!!」
「熱くない!!火傷なんてしないから!!」
いやいやと首を振って拒否してるのに、彼は細長いホースみたいなのから水をだす。
湯気が出てきたっ…
明らかに熱そうじゃないかぁ!!
「ほら、こっちにこい!!熱くないから!!」
「嘘だぁ!!湯気出てるもん!!いやだぁあああああ!!」
「ふぁああ…」
「どうだ?気持ちいいだろ?」
「うん…きもちぃー…」
あの後、僕は彼からお湯をかけられた。僕はお湯の温度なんて知らなかったから、かなりビクつきながら手を濡らした結果…とても気持ちよかった。
そして、僕は頭を洗ってもらってる。これが本当に気持ち良くて…!下手したら寝ちゃいそう…
「なぁ…」
「んー…?」
「耳と尻尾…取らなくていいのか?」
「…何言ってるのー?これ、取れないしー…」
「…そうか」
納得いかないような顔をしながら、わしわしと僕の頭を洗う。
「…身体は自分で洗うんだぞ」
「?どうやって?」
「…………」
結局、僕は彼に身体も洗ってもらった。いや、本当に洗い方知らないから…