“わかった。お前の我が儘、聞いてやる”
「本当…に?」
「ああ」
「僕…は「させるわけないだろ?」
あ、そうだったな…。こいつらを忘れてた。
「貴様、今自分の状況を理解してからいったらどうだ」
そのぐらいわかっている。
今の俺達の状況は『氷』の兵士達に囲まれている状態だ。
ここで力を使ったら、コイツも一緒に溶けて消滅してしまうだろう。
だからといって、コイツの手を握って逃げてもコイツは手から溶けてしまう。
さて、どうしようか…
「貴様はもう逃げられない。大人しく、その『氷』だったモノを返して貰おうか」
「…っ」
「大丈夫だ…お前は絶対に守るから…」
「……うん」
やっぱり一か八かだな…
「逃げろ」
「え?」
それしか方法がない。
「え…でも…君を置いてなんて、逃げられるわけなじゃないかっ…!!」
「1時間だけ時間をやる。その間にここから北に向かって出来るだけ遠くに逃げるんだ。あとで追いつくから」
「で、でも…」
「行け!!早く!!」
そう叫ぶとアイツは部屋の出口へと走った。
そう、これでいいんだ
「逃げたぞ!!」
「追え!!」
「おまえらの相手は俺だ」
アイツが出て行ったのを見計らって俺は炎を出現させて、兵士達に向かって放った。
兵士達は悲鳴を上げる暇なく全員溶けてしまった。
あと、残っているのは…
「お前だけだな…ガゼル」
「ああ、私はお前を必ず消す」
ガゼルの周りの冷気が温度を下げていく。
俺も競うように自分の周りの熱気を上げる。
「っ!!??」
「………」
残念だったな。俺はまだ戦うわけにはいかない。
空中に翻して飛ぶ
ガゼルは俺の行動を予測してなかったらしく、戸惑っている。
「貴様…逃げる気か?」
「いや、隠れん坊でもしようと思ってな」
「?舐めているのか?」
俺は再び炎を出現させて、自分の幻覚を作った。大体50体くらい
「一時間以内に俺に辿り着いてみろ。簡単じゃつまらないだろうから、ダミーも作った。そっちの方が楽しいだろ?」
「っは!それもそうだな」
_そして、隠れん坊が始まった
「っはぁ、はあ…はぁ」
城を出てからどのくらい経っただろう…僕は彼から逃がして貰った後、すんなりと城から脱出できた。
裏道を使ったのもあるけど、一回も兵士達に出会わなかった。
「運が良かったのかな?…それとも…」
_全員、彼が…
僕は一瞬安心感を感じたが、それは一瞬に冷めた。
相手があのガゼルって『氷』だからだ。
僕は今まで順位なんて気にしてなかったから、ガゼルという『氷』の存在は今日初めて知った。
多分、元No.2だろう。
そして、今ガゼルは僕の力を取り込んでいる。小さな力でも、大きな戦力になるとアツヤに聞いたことがあった…
つまり、今のガゼルは『氷』の中で最強ということだ。
「どう…しよう…」
僕のせいで彼が消えてしまったら…
また僕は独りになってしまうのだろうか…
「っつ…う…うぅう…」
『泣くな!弱虫兄貴!!』
え?
「アツ…ヤ?」
どこからか愛しい弟の声がした。
でも、アツヤは死んだはず…
なのにどうして…
「アツヤ…アツヤ!!どこにいるの!?ねぇ、出てきてよ!!」
『…悪いな。俺はもう兄貴に会えない』
「な…どうして?」
せっかくまた会えると思ったのに
どうして?
『兄貴はもうすぐ消える…だから、今会えなくたってすぐに会えるだろ?』
「僕は…今会いたいんだ!!」
『兄貴…』
僕がどれだけ寂しい思いをしてきたと思ってるの?
お前がいないだけで、僕は何もかもを失ってしまった…
いや、違う
アツヤが僕の全てだったんだ
「…今すぐにアツヤに会えないなら…僕はここで命を捨てるよ…」
アツヤに会いたい…抱きしめたい
笑顔がみたい…だから…
『バカ兄ちゃん!!』
「…え?」
ポコッと頭を叩かれた感触がした
でも、振り向いても誰もいない
『兄ちゃんは俺に捕らわれ過ぎだ!!それは、俺にとって嬉しいことだけど…今、兄ちゃんを守ろうとしている奴のことを忘れるな!!兄ちゃんは自分が望んだ死に方で消えたいんだろ?!誰がそれを叶えてくれようとしてくれてる!?兄ちゃんはそいつの命を無駄にするのか!?」
「ぼ、僕は…」
だって…アツヤは僕のすべてで…アツヤのためなら僕はなんでも捨てられる…
『追いつくって言われたんだろ?ちゃんと待ってやれよ…そして、そいつにちゃんと言えよ?』
「な、何を?」
『“ありがとう”って』
そして、アツヤの気配が消えた
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