「あーあ…」
アツヤが死んだ。僕はもう最下位。
「最下位…か」
風に乗せてテスト結果の紙を飛ばす。別にいいよ、見られたって恥ずかしくない。
ゆらゆらと揺れて重力に従って下へと落ちていく。
「君はどう思う?」
「別に…」
いつの間にか現れた炎に問う。
僕は座って壁にもたれていて、彼は立って同じ壁に腕を組んでもたれている。
「君さ、ここどこだかわかってる?君みたいな炎が来ちゃいけないとこなんだよ?」
「いいだろ?別にお前溶けてないし」
「今、フィルターかけてるんだけど。全身頑張って冷気で包んでるんだけど」
「そうか。がんばれ」
彼は炎だ。
僕達、氷にとっては天敵なんだけど…彼は僕を殺そうとしない。
彼らは燃やすためだけに存在しているのに…
「君達もさ…テストとかあるの?」
「あぁ、あるぞ」
「やっぱ、僕達と同じ?」
「多分な」
「そっか…」
ただ燃やすだけでいいもんね。凍らせるより簡単そう…
「俺は…嫌だ」
「え?」
何を言ってるんだ彼は…
「自分の存在否定してるよ…」
「別にいい。自分なんかより相手の方が大事だ」
何かが違う…何かがずれている。
「君には人間と同じ感情があるの?」
彼は珍しく目を大きくして僕を見た。そういえば、初めて目が合ったんじゃないのかな?
「…そうかもしれない」
「ふーん…」
炎が人間の感情を持ってるなんて…変なの
「お前にもあるかもしれないぞ」
「は?」
なんて言った?
「僕に?あるわけないよ。ていうか、僕達『氷』に感情なんてある訳ないじゃないか。ただモノを凍らすだけの冷たい存在なんかにさ」
「…そうとも限らないと思うぞ?」
「何?君、僕のこと何でも知ってるとでも?」
「………」
ほらね、黙っちゃった。所詮、僕らは相容れぬ仲。何も知らない、何も教えない。それが当たり前。
「知っている」
「は?」
「お前には人を大切にする気持ちがある。そして、何かが消える悲しみも知っている」
「何…それ…」
感情なんてあるわけないじゃないか。神様はただのちっぽけな存在に感情を与えるほど優しくないはずだ。
「…僕が悲しんでるように見える?アツヤが死んで、一人ぼっちになって、完璧になることができなくなって…僕は…あ、れ?」
ぽろぽろと目から氷が落ちる。あれ?何これ…
「目から…氷が…なん、で?」
「それは『泣く』という自然現象だ。悲しみが頂点に達すると自然に目から雫が出るらしい」
何それ何それ。初めて聞いた。知らない。知らないよそんなの
「そんな…の、知らなっ…い」
「だろうな。だってこれは
人間の感情だからな」
僕達は普通じゃなかった